ヒロコのサイエンスつれづれ日記

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理系ドクターの就活事情【3】適職に出会うための3つの戦略

文部科学省の発表によれば、現在、日本にはポスドクが約1万5千人、博士課程在籍者が7万5千人弱いるとのことです。

でも、そのうちアカデミックの世界に残るのはごくわずか。このまま研究を続けることに違和感を感じている方もいらっしゃることでしょう。

ただ、研究室の中にいるとアカデミア以外の世界で働く人に接する機会が少ないうえ、ロールモデルとなる先輩もあまりいないので、「将来に対する具体的なビジョンが描けない」あるいは「いざアクションを起こそうと思っても何をすればいいのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、アカデミア以外の世界で活躍する博士号取得者のあゆみから、適職に出会うために取るべき行動の指針を探っていきたいと思います。

ポスドクが適職に出会う-イメージ画像

ゴールにたどり着くための戦略とは?

 

見事プロダクトマネージャーに転身したポスドク

カリフォルニア大学アーバイン校の大学院で分子生物学・生化学を専攻していたIssa Moodyさん。当初はアカデミアに残る選択肢も考えていたものの、次第に、大学ではなく企業で研究を続けたいと思うようになりました。

そこで60社以上に応募したのですが採用には至らず、学位取得後は、しかたなくX線結晶構造解析を手掛ける研究室のポスドクとなりました。心機一転、ポスドク配属と同時に就職活動を再開。「1年半たっても就職先が見つからなければMBAを取る!」と背水の陣を敷きました。そして結果は・・・残念ながら、やはり就職先は見つからず、結局MBAを取得するため、再度、大学院に進学することになりました。

ところが、これが転機となり、MBAを取得した後に見事、プロダクトマネージャーとして就職に成功したのです。詳しくはnature jobsのこちらの記事をご覧ください。

Issaさんのあゆみは私たちに多くのヒントを与えてくれます。

 

【戦略1:まずは方向転換してみる】

Issaさんの記事を読んで、ホリエモンこと堀江貴文さんの、「運やチャンスの正体について(4:25あたりから)」の対談を思い出しました。

桃太郎の話に出てくるお婆さんの取った「ある行動」にこそ、運をつかむヒントがあるというのです。その行動とは「川に流れている桃を拾ってみた、しかもそれを割ってみた」こと。

当時、多くの人が毎日のように洗濯をしていたことでしょう。そして、その川には、どこかの木から落ちてしまった桃が何個も流れてきたことでしょう。「あらやだ、また桃が流れてきたわ」なんて言いながら、ほとんどの人はその桃を無視して、目の前にある洗濯という仕事に集中していたのです。

ところが、そのお婆さんは他の人とは違っていた。桃を拾い、しかも割ってみた。この行動こそが、桃太郎というヒーローを生み出し、ひいては鬼を退治するという悲願をかなえるきっかけとなったというのです。

前述のIssaさんは、まさにMBAという「桃」を拾い、割りました。目の前にある研究という仕事だけに集中するのではなく、

あえて違うことをやって方向転換してみる

そのおかげで、プロダクトマネージャーというゴールを見出すことができたのです。

MBAという「桃」の存在を知っていても、それを実際に「拾う」理系の大学院生やポスドクはごくわずかでしょう。でも、少しアンテナを広げて、勇気を出して、違う一歩をふみだしてみませんか?就活サイトに登録してみる、インターンに参加してみる、企業とコンタクトを取ってみる、どんなことでも構いません。できることから、まずは一歩を踏み出しましょう。

 

【戦略2:オンリーワンを目指すなら「掛け算」で勝負】

1つのことにずば抜けて優れた人ならいざ知らず、多くの人は残念ながらそうではありません。よく言われることですが、複数の得意分野をもつことで、他の人には無い自分だけの価値を高めることができます。Issaさんのケースを式で表してみると、

分子生物学×MBA=プロダクトマネージャー

となるでしょう。

そもそも、IssaさんはなぜMBAを取るということを思いついたのでしょう?記事には直接のきっかけは書かれていないのですが、興味深いエピソードが紹介されていました。

実はIssaさんが所属していたラボではプラスミドDNAの管理がずさんで、あるはずのプラスミドが紛失し、これを一から作り直すということが時々起こったそうです。

そこで彼は、QRコードEvernoteを使ってプラスミドを一元管理するシステムを構築。おかげでラボの人たちは以前のように無駄にプラスミドを作る必要が無くなりました。

問題を発見し、それを解決するという経験を通して、Issaさんは自分に品質管理や効率化といったビジネスの才能があることに気づき、そこからMBAという「項」を自分のキャリアに掛け算することを思い立ったのではないでしょうか?

皆さんが今まで取り組んできた課題の中にも、きっと

掛け算の「項」が隠されている

はずです。

Issaさんだけではありません。日本でも多くのドクターたちが掛け算で勝負し、夢をかなえています。詳しくは以下のサイトをご覧ください。

    天文学×外資系証券会社=宇宙ベンチャー企業社長

    理論物理学×生物学=コンサルタント

    生物学×コンサルタントベンチャーキャピタリスト

 

【戦略3:自己投資する】

Issaさんはポスドクを経てMBAを取得するという行動に出ましたが、これは方向転換であると同時に自己投資でもありました。

MBAのために大学院に通う間は仕事ができないばかりか学費もかかります。収入が無いだけでなく、出費を伴うのです。とりあえず就職しようと思えば、いくらでも他の選択肢もあったはずですが、そのような中、キャリアを中断してまで大学院に進学するというのは、大変な覚悟が必要です。

しかし前述のように、「掛け算」の項を増やし、自分の強みを広げておくことは、キャリアアップにおいて、とりわけキャリア形成の初期段階では、とても重要です。

必ずしもMBAである必要はありません。前述の盛島さんは、大学院時代に学内で定期的に行われていた夜間講義に通ったと言います。そして講義で知り合った人を通じて、とある研究所のリサーチインターンに参加、学位取得後はその研究所に配属が決まり、このことが現在のキャリアにつながったそうです。

目先の仕事だけに没頭するのではなく、

仕事と並行して自分の成長のために時間やお金を投資する

一見、回り道とも思えるこの行動が、後のキャリアに活かされてきます。

となると、契約社員や任期付きのポジションの方が、実は自己投資には有利かもしれません。とりあえず就職してお金を貯め、任期が切れたところで自己投資モードに切り替えるのもアリです。今はMBAもITスキルもオンラインで学べる時代ですから、もちろん、仕事を続けながら自己投資するのもいいでしょう。コロナショックの影響で求人が減り、安定した仕事に就くことが難しくなっていますが、このピンチを自己投資のチャンスに変えてみませんか?

 

直進するだけではなく方向転換ができる人、目先の仕事だけでなく自己投資ができる人は、世の中が大きく変わっても、きっと新たなゴールを見つけられるはずです。そのような人こそ、ポストコロナ、ウィズコロナの時代に求められる人材ではないでしょうか。

 

是非、以下のサイトも参考にしてみてください。

 

jrecin.jst.go.jp

www.enago.jp