「女性限定公募」への不満で見える典型的なマイクロアグレッション
2022年、東北大学と東京工業大学が教授や准教授への応募を女性に限る「女性限定公募」を実施して話題になりましたね。
海外の理工系大学たとえばジョージア工科大学でも教員の女性比率は25%ぐらいですが、日本アカデミアの女性比率は、2020年で17%程度です。
このとき、東工大では女性限定公募は、8部局、つまり東工大の全部局同時の取り組みで、また東北大学大学院工学研究科が実施した女性教授公募では、定年制5人の枠に約50人と競争率は10倍。
多様性、公正性、包摂性を理念に掲げた「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)推進宣言」を発表した取り組みで、助教を雇用できるなど支援が手厚かったことも話題にされました。
そして注目すべきは「女性限定公募」は女性の参加促進やジェンダーギャップの解消を目的とした措置にもかかわらず、一部でマイクロアグレッションが噴出したこと。
本記事では、「女性限定公募」への不満として表われる典型的なマイクロアグレッションについて深彫りしながら、その理解と対応の重要性について書いてみようと思います。
「女性限定公募」の背景
あらためて強調しますが、大学における女性限定公募は、科学技術やSTEM分野(科学、技術、工学、数学)などの男性が優勢な領域での女性の参加やリーダーシップの機会を増やし、ジェンダーによる不均衡や偏見を是正することに眼目があります。
女性限定公募が行なわれる背景をざっとまとめてみます。
- ジェンダーギャップの是正
科学技術分野を筆頭にリーダーシップポジションにおいて男性が女性よりも圧倒的に多いというジェンダーギャップが存在します。
女性限定公募は、性差別による健全な場の構築を妨げるこのギャップを埋め、女性というだけでつけないポジションを拓いていきます。
- 形成的な影響
女性のモデルやメンターの存在は、ほかの女性へのモチベーション向上につながります。
女性限定のプログラムは、女性同士が支え合い、お互いを励まし合うシスターフッド的な場となることを目指しています。
- 多様性の追求
異なるバックグラウンドや経験を持つひとびとが集まることで、新しい視点や考えが見つかり、より充実した環境となります。
女性限定公募は、男性が優位につくポジションや領域においてその多様性を追求するひとつであり、より包括的な学術環境を目指すものです。
以上の理由から、女性限定応募は差別ではなく、不平等を是正し、女性の参加や平等な機会を促進するための一時的な手段として考えられます。重要なのは、女性のみを優遇するのではなく、他の個人やグループの権利や機会も公平に配慮することです。
女性限定公募に対するマイクロアグレッション
先ほどマイクロアグレッションが噴出したと書きましたが、そもそもマイクロアグレッションとは何を指すかということからおさらいしましょう。
マイクロアグレッションとは、一見些細な言動や態度であるものの、当事者に対して差別や侮辱を含むメッセージとなるものです。
これは、社会構造やステレオタイプが無意識に無批判に基盤となっている結果です。
ここから差別だと主張する声がなぜマイクロアグレッションに相当するかを挙げていきましょう。
マイクロアグレッションの例
一部の人々は、「女性限定公募」が男性差別や逆差別だと主張し、その不満を表明します。
冒頭で挙げた20%にも満たない異様な状況を知らず、女性が科学技術分野やリーダーシップポジションにおいて男性よりも少ない存在であるという歴史的事実や現実の不平等に目を向けないひとびとにありがちな言動です。
これらの批判は、以下のようなマイクロアグレッションといえます。
- 「女性だから特別扱いされている」という感情の表明
これは、女性の参加促進やジェンダーギャップの解消を否定し、女性が特別な待遇を受けることを不公平と捉える考え方です。
- 「男性差別だ」という特権的立場からの主張
これまでの特権的立場であることを忘れ、女性限定公募を男性差別と見なし、男性の参加機会を奪われるという批判があります。
しかし、ここまで見てきたように、女性の社会的不平等や過去の歴史的背景を無視した主張でしかありません。
理解と対応の必要性
女性限定公募への不満がマイクロアグレッションとして表われてくることに対しては、そうした人物たちと粘り強く対話すること、ジェンダーの問題や不平等についての教育や啓発活動を通して、偏見の自覚を促すことが必要です。
おわりに
「女性限定公募」への不満がマイクロアグレッションとして表われることは珍しくありません。
なかにはミソジニーも混じっていることがあるため、対話の場がこじれてしまい、うまくコミュニケーションがとれないことの方が多いですが、それでも理解不足や偏見に対して、粘り強く向き合う必要があります。
女性の参加促進やジェンダーギャップの解消に向けた取り組みを継続し、社会全体で包括性と公平性を追求することが重要です。
大事なのは、意思決定の場に女性を増やすことです。
たとえば30人中10人が女性だと、女性の意見も反映され「メンズクラブ」で決めるというのは通用しなくなります。
女性研究者が研究者としてキャリアアップしていく際、妊娠・出産などといったライフイベントが、研究活動に大きな影響を与えてしまう状況になっています。
キャリアの評価制度自体が男性主体の考え方になっていること、この評価のシステムを変えていくことが次なる課題となっていくでしょう。
まだまだ第一歩というわけです。
最後までお読みいただいてありがとうございました。