ヒロコのサイエンスつれづれ日記

フリーのサイエンスライターです。論文執筆・研究・キャリアについて発信していきます。

どうすればノーベル賞をとれるのか?

今年もやってきました!秋と言えば、そう、ノーベル賞の季節ですね。ノーベル賞をとるなんて夢のまた夢ではありますが、ノーベル賞をとるような独創的な研究をしてみたいと、思う方は多いのではないでしょうか。2020年に受賞した研究をご紹介しつつ、過去の受賞者のあゆみから独創的な研究をするためのヒントを探ります。

 

 

ノーベル賞メダル

ノーベル賞を受賞するのは1億人中たった1人だけ

2020年ノーベル賞は?

2020年はこちらの自然科学・医学系の研究がノーベル賞を受賞しました。解説サイトのリンクをご覧ください。

残念ながら日本人の受賞はかないませんでしたが、ノーベル化学賞の受賞対象となったゲノム編集技術「クリスパー・キャス9」には、九州大学の石野良純教授が1987年に発見した「クリスパー」と呼ばれる遺伝子配列が使われています。ちなみに「キャス9」はクリスパーを目印にDNAを切断する酵素のこと。切断したい遺伝子配列にクリスパーを組み込みさえすれば、どんな配列でもキャス9が切断するという仕組みです(詳しくはこちら)。

ある遺伝子配列を特異的に切断する制限酵素は、今でこそ分子生物学のありふれたツールですが、「制限酵素の発見」も1978年に生理学・医学賞を受賞していますね。また、その後、多くの制限酵素を見つけたサー・リチャード・J・ロバーツも1993年に「分断された遺伝子の発見」で生理学・医学賞を受賞しています。

どうすればとれる?ノーベル賞

さて、今回、大それたタイトルを掲げてしまいましたが、どうすればノーベル賞がとれるのでしょう?受賞に至らずともノーベル賞級の仕事をしてみたい、ターニングポイントとなる新発見をしてみたい、というのは科学者なら誰しも抱いている夢ではないでしょうか?

検索してみたら面白い本を見つけました。

凡人が行ってはいけない禁じ手3つ+秀才でなくてもできるおススメ8か条+奥の手2つが紹介されています。なんと、筆者の石田寅夫博士によれば、ノーベル賞接触感染するのだそうです!今すぐノーベル賞受賞者がいるラボにポスドクをアプライしなくては…と思った方、記念写真を一緒にとるだけで大丈夫とのことです。なんともユーモラスなアドバイスですね。

また、ノーベル賞受賞者本人がノーベル賞をとる秘訣について明かしているサイトもありました。

前述のサー・リチャード・J・ロバーツによるTen Simple Rules to Win a Nobel Prizeが紹介されています(別のサイトで和訳も紹介されていますので合わせてどうぞ)。こちらも真面目半分、ユーモア半分の10か条になっています。

リチャード博士は近日中(2020年11月24日)に

と題する講演をオンラインで行うとのこと。専用サイトに登録すれば無料で視聴できます。是非こちらもチェックしたいですね。

研究テーマの選び方

石田博士やリチャード博士の主張には共通点があります。

  • その当時の最大課題を追求しない(石田博士の禁じ手3)
  • 他人がやりそうもないテーマで、自分の弱点を生かせるものを選び、こつこつがんばる(石田博士の第3法則)
  • これからノーベル賞をとる研究者がいるラボで働く(Try to work in the laboratory of a future Nobel prize winner:リチャード博士の第6ルール)

つまり、

今は注目されていない萌芽的な課題を研究テーマに選ぶ

ということです。

これ、とっても大事です。大学院生にしてもポスドクにしても、つい業績の出ている研究室や研究費を多く獲得している研究室を選びがちです。決してそれは間違いではありませんが、その選択が本当にあなたのためになるかどうかは慎重に検討した方がいいのです。

研究にも流行りすたり、というものがあります。まだ誰も注目されていない分野で新しい発見が起こり(黎明期)、この分野が面白そうとわかると他の研究者が参入し(発展期)、やがてホットな分野として論文が量産される(繁栄期)というのが大体のパターンです。

繁栄期を迎えた分野や研究室にいると、確かに論文は出しやすいのですが、競争相手もゴマンといます。競争が激しいと論文を発表するサイクルも短くなり、じっくり考えるよりも、とにかく手を動かしてデータを出すことを求められます。そうこうしているうちに、研究者として一人前になるためのトレーニングを十分に受けることなく、業績だけは揃ってしまうなどということが起きるのです。ラボのPIは大御所として安泰な研究生活を送っていますが、自分はまだこれから何十年と研究者として生きていかなくてはならないのに、これでは遅かれ早かれ研究に行き詰ってしまうでしょう。

活気のあるラボにいると同僚から多くの刺激を受けますし、最先端の情報もたくさん入手できるので、メリットはあるのですが、いつかはそこから脱却してブルーオーシャンに飛び込み、自分で新たな黎明期を作るくらいの覚悟が必要なのです。

大隈良典博士のあゆみ

具体的な例をご紹介しましょう。ご存知の通り、大隈良典博士は2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞された方です。「オートファジー」と呼ばれる細胞内の分解機構を分子レベルで解明し、受賞に至りました。こちらの資料によれば、酵母のオートファジーを発見したのが1988年、オートファジーに関する遺伝子を特定したのが1993年だそうですが、それまでに発表した論文の数や獲得した科研費は決して多くはないことがお分かりいただけるかと思います。科研費がもらえなかった年もある(!)くらいです。

かつて大隈博士はインタビューで「科学の道を志すのであれば、人がまだやっていないこと、そして自分が心底面白いと思えることをやってほしい」と語ったそうです。いたずらに流行りを追うのではなく、

自分の興味を愚直に追求すること

が、結局は良い仕事をするための近道なのかもしれません。

かならずしも研究者として成功しなくてもいい、いざとなればアカデミアの外に出ていけばいいと腹をくくれば、むしろ安心して自分の道を究められるのではないでしょうか。iPS細胞の研究で2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥博士も、成果がなかなか出なかった時期は、「いざとなったら整形外科医に戻ればいい」と思っていたそうですよ。