ヒロコのサイエンスつれづれ日記

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任期付き研究者〈任ポス〉問題の深刻さ

 

任ポス問題

こんにちは。

理化学研究所は2023年3月末に600人の研究者を雇い止めすると2022年3月下旬に報じられてから、Twitterなどでは「#任ポス問題」として問題の大きさが広がっています。

この解雇で研究室やチームがなくなって職を失う研究者は約300人と見られています。

国立大学では任期なしポストが約2万人減り、科研費や民間との共同研究など外部から評価されている研究者が雇い止めになっています。こんな状態がまかり通っている限り、日本の衰退は止まりません。

 

日本の研究機関において、任期付き研究者が直面している問題は多岐にわたりますので、少し問題をまとめます。

これを受けて理研正規雇用問題解決ネットワーク(理研ネット)は2022年3月7日、理研の松本紘理事長(当時)に対しこの約600人の研究系職員の雇い止めの撤回無期転換ルールの適用を意図的に避ける目的での雇用上限の撤廃を要請しました。

松本理事長は3月23日に要請に応じることができないと正式に回答しています。

このことから3月25日午前、理研ネットは末松信介文部科学大臣後藤茂之厚生労働大臣に宛て、雇い止めの撤回と労働契約法の趣旨に則って雇用上限を撤廃するよう理研に要請。同日午後、理研ネットが記者会見を行なったのでした。

その後、4月1日に理研理事長に就任した五神真氏(前東京大学総長)は再度雇い止めの撤回を申し立てています。

この問題の本質を若手研究者の雇用不安の問題だと見做されているなか、一部では労働契約法の問題や政府の科学技術政策に問題までも浮上しています。

加えて、わたし自身は科学研究の環境や資金配分の問題もあるように思います。

もうちょっと言うと、研究費の配分や研究テーマの選択にまつわる政府および研究機関の役割に関する点です。

研究者の安定した研究と成果には、きちんとした研究環境と資金が必要なのは言うまでもないですよね。

政府や研究機関は、将来性のある研究テーマに適切な予算を割り当てることは、研究者の雇用不安を少し軽くすると思います。

研究者の雇用形態に関する制度改革ももちろん重要になります。

正規雇用や短期雇用が主であれば、研究者は雇用不安に晒されたままだからです。

さらに言うと、研究者のキャリアパスやキャリア支援についても見直されなければならない件です。

これが重要なのは、若手研究者が安心して研究に専念できる環境を整備することで後世の研究者の育成やアカデミアへの定着につながっていくからです。

 

それでは、任期付き研究者の問題点とその解決策について詳しくまとめます。

 

1. 終身雇用からの転換

過去の日本の研究機関では、終身雇用が一般的で研究者は安定した雇用状況に恵まれていました。

ですが、現在は任期付きの契約や非正規雇用が主流となり、研究者は再雇用の不確実性やキャリアパスの不透明さに直面しています。このことは、研究環境に大きな転換をもたらした大きな点です。

2. 研究環境の不安定性

任期付き研究者は契約期間が限定されているため、安定した研究環境を築くことがとてもむずかしくなっています。

短期間の契約では、研究計画の実施や長期的な研究テーマの追求ができない場合があります。研究者は自身のキャリアを確立しながら優れた成果を出すためには、持続的な研究環境が必須です。

3. 賃金や福利厚生の格差

任期付き研究者は一般的に正規の研究者と比べて賃金や福利厚生面で不利なときがあります。

研究費の確保や研究結果の発表にも制約があるケースさえあり、研究へのモチベーションや成果に影を落とします。フェアな報酬体系と福利厚生の整備が見直されるべきです。

4. キャリアパスの制約

任期付き研究者は再雇用が不確かだったり競争が激しかったりするので、キャリアパスの制約を受けることがあります。

一定期間を経て契約が切れると、ほかの機関への移籍もしくはキャリア転向を余儀なくされるのも珍しくありません。

そうなると、特定の研究分野での専門性の深化や長期的な研究計画の実現が難航します。

キャリアパスの確立と研究者のスキルや専門性を活かせる機会の拡充が必要です。

5. ワーク・ライフ・バランスの課題

任期付き研究者は研究業績の追求や再雇用にかんする競争のなかで長時間労働やプレッシャーに晒されます。

こうしたことはワーク・ライフ・バランスを崩すきっかけになります。適切な労働時間や休暇制度の導入、メンタルヘルスケアのサポートなど、研究者の健康と働きやすさを重視した環境が必要です。

 

これらの問題を考えると、以下のような対応がとられるべきと思います。

 

研究者の安定した雇用を確保するためには短期契約ではなく、長期の雇用契約です。これがなければ研究者は持続的な研究活動やキャリアの構築に集中できないからです。

 

  • 公正な報酬体系の整備

任期付き研究者と正規の研究者との間の報酬格差をなくすため、公正な報酬体系を設ける必要があり、また、福利厚生の向上や研究費の充実にも目配りが必要です。

 

  • キャリア支援プログラムの充実

任期付き研究者がキャリアパスを自由に選択できるよう、キャリア支援プログラムの充実が大事でしょう。異なる研究分野への挑戦や産学連携など、多様なキャリア選択肢を示せれば状況は変わってくるはずです。

 

  • ワーク・ライフ・バランスの重視

研究者の健康と働きやすさに重きを置き、適切な労働時間と休暇制度を導入しないと問題は解決しません。このなかにはもちろんメンタルヘルスケアのサポートも入り、研究者の心身の健康をサポートする基盤が必要となります。

 

まとめ

 かつては終身雇用が主流であり、研究者は安定したキャリアパスと雇用条件を享受していましたが、近年では短期契約や非正規雇用が増加し、研究者たちは再雇用の不確実性やキャリアの不透明さに直面していることが浮き彫りになりました。

 

ここからわかる #任ポス問題 というものをまとめると

 

  • ポスドクの制度とワークライフバランスに無理が生じている
  • 雇用制度など制度自体に問題がある
  • 研究職の問題が広く伝わらず当事者以外のテコ入れがない 

 

研究者の最も大事な役割は、新たな知識や技術の創造や社会への貢献です。

そのため、研究者が自身の研究の質と量を向上させるために努力するには、優れた研究成果を上げ国内外で評価を得ることで、研究者のキャリアや雇用の安定に直結する事柄です。

研究費の獲得や学術論文の発表、学会での発表などを通じて自身の研究成果を示すことです。

それに研究者は自身の専門分野における最新の知識のフォローを絶えずおこたらずに、プロジェクト管理やチームワークなどのスキルも重要になってきます。

 

研究者の大量雇い止めは、決して自己責任ではありません。有能なリーダークラスの研究者さんも雇止めの対象となっていたことから、能力の問題ではないことは明らかです。研究者の雇用不安を単に個人の責任とするべきではないと思います。

研究者自身と社会的な支援が相互に補完しながら、より良い研究環境を実現することが必要です。