ヒロコのサイエンスつれづれ日記

フリーのサイエンスライターです。論文執筆・研究・キャリアについて発信していきます。

理系ドクターの就活事情【2】ズバリ、おすすめの職種はコレ!

前回はドクターならではの自己分析をご紹介しました。「私は△△が苦手だから研究者を諦める」のではなく「私にも〇〇をする能力が備わっている」という風に、自分に対する見方を変えましょう(まだ自己分析をなさってない方は、ぜひ前回の記事「理系ドクターの就職事情【1】あなたはどのタイプ?」でセルフチェックをしてみてください)。

今回は、いよいよ具体的な職種、それも研究以外の分野に焦点を当てて見ていきたいと思います。より求人が少ないと言われている基礎研究の分野を専門としていたドクターにも応募可能な求人をご紹介します。

 

 

よ~く探せば、きっとあなたにピッタリの職種がありますよ!

弁理士

昔から博士課程を出た後の進路として人気がある職種です。

弁理士は「特許や実用新案などを申請するお手伝いをする」仕事です。理系の専門分野の知識に加えて、法律の知識や特許明細書を作成する文書作成力、そして顧客とのやり取りを行うコミュニケーション力が求められます。

弁理士になるには弁理士試験に受からなければなりませんが、博士号を持っていると一部試験が免除になります。また、特許事務所で働きながら弁理士試験を受けることも可能です。実際、特許事務所の求人を検索すると、確かに弁理士の資格や特許明細書の作成経験は歓迎されますが、必須ではないケースも少なくありません。

さらに知的財産に関する経験や知識があれば、将来的に製薬会社の特許部門やコンサルティング会社などでのキャリアにつながる可能性も見えてきますね。

 

弁理士試験の制度について

弁理士として働いている博士保持者の方の話

弁護士youtuberによる特許法解説動画

 

データ解析

コロナショックで情報産業のニーズは、ますます高まっています。中でもデータ解析は統計学情報科学専攻の方、また物理・化学を専門にしてきた理論系の方におすすめの職種と言えます。一部のコンサルティング会社では「データサイエンティスト」として採用しています。

また、年収や任期を問わなければ、「未経験でも学習経験があればOK」という求人もあります。オンライン講座を受講して修了証をもらい、まずは未経験OKのポストでキャリアをスタートさせる、というアプローチもアリです。

 

データサイエンティストの仕事概要

物理学を専攻し、データ解析の仕事についている方の紹介動画

在宅で受講できる!プログラミングのオンライン講座

 

コンサルティング

「理系だけど実はプログラミングは苦手…」「バリバリの生物系で理論はさっぱり…」という方、諦めないでください!データサイエンティスト以外のポストでもコンサルに就職するチャンスはあります。中には生物系の博士を採用しているコンサルもあるのです。

なぜでしょうか?ライフサイエンスは創薬や新規治療法に直結する分野で、感染症やがんの治療のニーズが高まる昨今、ビジネスチャンスが拡大しているから、というのも要因かもしれませんが、より本質的な理由は「生物学の研究で培ったスキルが、まさにコンサルの仕事に求められるスキルそのものだから」でしょう。

生物学では比較的複雑な系を研究対象とするので「いかに複雑さの中からシンプルなパラメーターを抽出し、実験的に実証するか」が最大の課題です。また、相手が生き物ですから、実験の過程で予期せぬハプニングが多発しますし、しかも対象が「生きている間に(=活性を保っている間に)」ハプニングを解決しなければならないという厳しい時間的な制約もあります。

これらのプロセスは、実は「複雑な世の中の状勢を見極め、実現可能なゴールを設定し、限られた時間と予算の中でそれを達成する」というコンサルに求められるニーズそのものではないでしょうか。もちろんバイオ系以外の研究者の皆さまも、日々、このような課題と格闘していらっしゃることと思います。ご自身の研究生活で経験した山あり谷ありの試行錯誤の過程は、唯一無二のアピールポイントになるはずです。

コンサルタントとしての実績を積めば、研究者を学術的にサポートするプラットフォームで、フリーのコンサルタントとしても活躍できそうです。

 

物理・生物学を専攻して外資コンサルに就職した方の話

バイオ出身のドクターでコンサルに就職した方の事例

 

メディカルサイエンスリエゾン(MSL)

コロナショックで景気が低迷する中、比較的堅調な業界といえば製薬業界でしょう。ただ、医学・薬学または化学を専攻した方に対しては研究・開発職の求人があるのですが、生物専攻者に向けた求人は数が限られてしまいます。

ですが、まったく無いわけではありません。メディカルサイエンスリエゾンもその一つ。日本では聞きなれない職業ですが、PhD取得者を歓迎する職種として注目を浴びています。

平たく言えば「新しい薬について、販売目的でなく学術的な知見に基づいて、医師や研究者向けに発信する」仕事です。販売目的でしたらMR(医薬情報担当者)がよく知られていて、薬剤師の資格が必須なのですが、MSLは、より学術的な側面の強いポストで博士号保持者を歓迎しています。

求人を検索すると腫瘍学分野での募集が目立ちます。がん研究を行っている研究室でポスドクをしてからMSLになるというキャリアパスもありそうですね。私自身もMSLの資料作成を手伝った経験があるのですが、学会用のパワーポイント資料を作成した経験が大いに役立ちました。情報収集力、プレゼンテーション力を活かしたいバイオ系PhDにおススメです。

 

MSLとPhD

MSLとMRの違いについて

公益財団法人がん研究会のポスドク公募情報

 

学術翻訳・校正者など学術出版業務

論文を書くのが好きという方に、是非、お勧めしたいのが学術翻訳者・校正者です。英語の論文を読んだり書いたりしてきた経験をダイレクトに活かせる職種です。翻訳業界にもAIの波が押し寄せ、翻訳者の求人が減っているのではないかと危惧している方もいらっしゃるかもしれませんが、学術論文のように高度に専門的な内容を扱う文書の場合は、話は別です。論文を論理的かつ説得力ある文章にリライトしたり、カバーレターをより訴求力のある文体に仕上げたりといった作業は、やはり研究の現場にいた人でなければできません。

また、学術出版系の会社に就職するのも手です。例えばnatureを出版しているSpringer nature group社は日本にも支社を持っていますが、自社サイトで採用情報を公開しています。編集業務やメディカルライターはもちろん、営業職にも研究に従事した経験が活かせそうです。

 

学術翻訳・校正者として働いているPhD

学術出版関連会社に就職した方の話

シュプリンガー・ジャパンの求人例

 

リサーチアドミニストレーター(URA)

URAはひと言でいうと、大学での研究をサポートする仕事です。業務内容は、産学連携、特許申請、助成金申請の支援からアウトリーチ活動の促進やイベントの企画まで、実に多岐にわたります。

URAとして働いている方々のキャリアも様々です。研究畑一筋の方もいれば、特許事務所やコンサルティング会社での経験を経てURAのポストに就く方もいます。学位を取ってすぐURAになる方は少数派で、ポスドクや企業での経験を積んでからという方が多いようです。

この制度が本格化してから5~6年ほどしか経っていないので、アイディア次第で新しいプロジェクトを立ち上げるチャンスもあるかもしれません。URA制度を導入している大学は全国で15大学ですが、求人はコンスタントに出ていますので、是非トライしてみてはいかがでしょうか。

 

京都大学学術研究支援室の様子

東北大学研究推進・支援機構URAセンターのメンバー紹介

URA求人情報

 

いかがでしたか?この職種、おもしろそう!と思えるものがあったでしょうか?なかったとしても焦る必要はありません。エージェントで探せば、ここにご紹介した以外にも様々な選択肢があります。次回の記事では、見事アカデミアの世界から転身して就職に成功した方々のあゆみをご紹介し、適職を探す戦略を探ります。