ヒロコのサイエンスつれづれ日記

フリーのサイエンスライターです。論文執筆・研究・キャリアについて発信していきます。

論文のイントロダクションの書き方【3】良いイントロはココが違う!

論文のイントロダクションを書くためには、まずは良いお手本を見つけ、文章の組み立て方やカギとなる表現をインプットすることが必要です。前回の記事では、2020年Cellに掲載されたIsermanらの論文"Condensation of Ded1p promotes a translational switch from housekeeping to stress protein production(Ded1pの凝集によりハウスキーピングタンパクからストレスタンパク産生へのスイッチングが促進される)”のイントロを例に、キーワード、問題提起、心に刺さる表現をマーキングしました。それぞれにどのような特徴があるのかを、今回のポストで検証します。

イントロは「フォーカス」が決め手!

ポイント1:キーワードがフォーカスされていく

段落ごとのキーワードを順に並べてみましょう。heat shock response→translation regulation→assembly of SGs→Ded1pのように変化していますが、話題がフォーカスされているのがよくわかります。これらのキーワードをつなげて1文にしてみると「熱ショック応答の一連の反応の中でも、翻訳レベルの制御が重要で、これにはストレス顆粒の凝集が制御に関与しており、中でもDed1pがカギを握っている」となるでしょうか。よく、イントロは「逆三角形をイメージして、入口は広く出口は狭く」と言われますが、見事な逆三角形が形成されているのがわかります。

 

ポイント2:問題提起もフォーカスされている

論文によっては、背景の最後の部分で問題提起がなされることもあり(というかそのようなケースの方が多いような気がしますが)、本論文では、

第2段落:

ハウスキーピング遺伝子の転写物と熱ショックにより誘導された転写物とを区別する仕組みがあると考えられているが、その実態はわかっていない

第3段落:

翻訳レベルの制御におけるphase separationは、ストレス顆粒のタンパク質のフォールディングミスにより起こるのか、それとも適応現象として濃縮が積極的に起こるのか、わかっていない

第4段落:

ストレス顆粒の一種であるDed1pの特性や機能は分かっていない

のように段落ごとに問題提起が登場します。キーワード同様、段落を追うごとに話題がフォーカスされ、リサーチクエスチョンもより狭まっていき、最後にピンポイントの問にたどり着きました。

実は第2段落と第3段落に問題提起が無くても話の筋は通るのですが、段落ごとに問題提起がなされると、階層ごとに論点が整理されるだけでなく、読んでいて、なんだかワクワクしますね。是非、このワザを取り入れてみたいものです。

 

ポイント3:結論の表現にはスパイスを効かせる

第4段落で示されたピンポイントのリサーチクエスチョンに返答するように、第5段落のトップに

Here we show that Ded1p acts as a stress sensor that directly responds to sudden changes in environmental conditions.

 

Iserman et al., 2020, Cell 181: 1-14

(Ded1pが環境変化に直接かつ素早く反応し、ストレスセンサーの役目を果たしていることが明らかになった)

と結論が示されています。

また、この文がいいですよね。淡々と書いてしまうと

Here we show that Ded1p is involved in the translation regulation of stress protein production.

な感じになってしまいますが、regulationという抽象的な表現ではなくDed1pを「センサー」と具体的なモノに例えて表現することにより、スイッチングの要としての機能を担っているという強いインパクトを与えます。また、directly やsudden changeという表現からは躍動感が感じられますし、「directlyって書いてあるけど、どんな実験からそのような結論が導かれたのだろう?」とか「sudden changeは、どのくらいの経時的変化なのかな?」という疑問が湧いてきて、「結果や図表も読んでみたい!」というモチベーションが高まります。

締めの文

We propose that heat-induced phase separation of Ded1p drives an evolutionarily conserved extended heat shock response program that selectively downregulates translation of housekeeping transcripts and arrests cell growth.

 

Iserman et al., 2020, Cell 181: 1-14

(ハウスキーピング遺伝子の転写産物の翻訳が選択的に抑制されて細胞の成長が止まるという、広く進化の過程で保存された熱ショック応答は、熱により誘導されるDed1pのphase separationが引き金となって起こることが示唆された。)

にもスパイスの効いた表現が散りばめられています。

例えば、evolutionally conserved extendedという形容詞(過去分詞)の二重使いは、若干やりすぎ感も否めませんが、「我々が示したDed1pの役割は酵母だけの話ではなく真核生物全般に共通している仕組みなんですよ」という熱意が伝わってきます。

また、drive a program(プログラムを起動させる)という表現もかっこいいですね。programを省いてheat shock responseとしても、内容的にも文法的にも間違いないのですが、program という名詞とdriveという動詞は実に相性がよく、『英辞郎』でdrive×programを検索してみると様々な用法が出てきます。Ded1pのphase separationが、あらかじめプログラムされている一連の反応の引き金となっている、というニュアンスが感じられます。

 

論文は論理的に書かれるものなので、大風呂敷を広げたり論理に飛躍があったりしてはいけないのですが、かといって淡々と書いてしまうと、つまらない文章になってしまいます。新規性と独創性は論文の価値を決める重要な要素ですから、それが分かるような「ワクワクさせる」文章の組み立て方や表現の使い方を身につけたいものです。

一つ一つの単語は決して難しいものではありませんが、ちょっとした工夫で文章が見違えるようになるのがお分かりいただけたでしょうか。日ごろから、こんな感じでイントロをマーキングして保存しておけば、いざ自分が執筆するときに使えますし、サイエンスに精通している英語ネイティブの専門家に原稿を見てもらえば、より豊かな表現を教えてくれるでしょう。知り合いにそのような人がいなければ、英文校正サービスを使うのも一つの手です。

 

 

 

 

論文のイントロダクションの書き方【2】イントロをマーキングしよう

論文のイントロダクションを書くためには、まずは良いお手本を見つけ、文章の組み立て方やカギとなる表現をインプットすることが必要です。前回の記事では、イントロをインプットするための3ステップ「仮説やリサーチクエスチョンをペンで囲む」「背景のキーワードをチェック」「心に刺さる表現にハイライト」をご紹介しましたが、今回はこれらのステップを実際にやってみたいと思います。

 

コツがわかれば簡単にマーキングできますよ!

 

ご紹介するイントロダクションは2020年のCellに掲載された Iserman らの論文”Condensation of Ded1p promotes a translational switch from housekeeping to stress protein production(Ded1pの凝集によりハウスキーピングタンパクからストレスタンパク産生へのスイッチングが促進される)”です。

このタイトルだけで、「あ~、あの話ね」と分かる方は、どうぞ本記事を斜め読みしていただいて構いません。

私のような門外漢がこの論文をどう読めばいいか、内容よりも構造や表現に着目してみましょう。細かい内容には深入りせず、わからない単語や現象は調べるにしても最小限にとどめておきます。オープンアクセスの論文ですので、ぜひPDFファイルをプリントアウトして、ご一緒にマーキングしていただけたらと思います。

 

まずはGraphical Abstractをチェック

では早速、PDFファイルの1枚目を見てみましょう。Graphical Abstractがありますね。雪だるまのような形は酵母の細胞です。通常、細胞の中では、生きていくのに必要なたんぱく質を合成するために、ハウスキーピング遺伝子のmRNAが翻訳されます。

しかし、ひとたび温度が上昇すると、何らかのメカニズムによりハウスキーピング遺伝子のmRNAは不活化され、ストレスmRNAの翻訳が始まります。その不活化の制御にDed1pが関与していることを見つけたぞ!というのがこの論文の主旨ですね。本論文の主役はDed1pのようです。

 

問題提起とキーワードをマーキング

ここまで頭にいれておいてから、イントロダクションを読んでいきましょう。

イントロは大きく分けて「背景」「問題提起」「解決方法&結果」が記載されています。この論文ではイントロは5つの段落で構成されていますが、段落ごとに「問題提起」がなされている箇所(下線部)キーワード(赤字)には印をつけ、心に刺さる表現にもハイライト(青字)を引いていきます。

※以下は引用ですが、参考文献は省略しています。

 

第1段落

To survive a heat shock, all organisms activate a process known as the heat shock response. This stress response program represses expression of housekeeping proteins and promotes production of stress-protective proteins. In eukaryotes, the transcription factor Hsf1 promotes transcription of a wide range of stress-protective genes that are then translated by ribosomes in the cytoplasm to produce stress-protective proteins.

 

Iserman et al., 2020, Cell 181: 1-14

この段落のキーワードはheat shock response(熱ショック応答)です。熱ショック応答の概要、つまり温度上昇→転写ON→翻訳ON→熱ショックタンパク質発現という一連のプロセスが説明されています。

 

第2段落

The heat shock response involves changes on the level of transcription but also on the level of translation. For example, exposure of yeast to heat shock induces a rapid and long-lasting translational shutdown. Moreover, extracts made from heat-shocked Drosophila cells preferentially translate heat shock transcripts, whereas extracts made from unstressed cells indiscriminately translate housekeeping and heat shock transcripts. This led to the proposal that there is a specific factor that discriminates between these two types of transcripts. However, the nature of the responsible factor and the features that distinguish housekeeping and stress transcripts have remained unknown. Recent studies revealed that heat-induced translation regulation coincides with assembly of large ribonucleoprotein granules called stress granules (SGs), which efficiently inhibit protein synthesis by sequestering mRNAs and translation factors.

 

Iserman et al., 2020, Cell 181: 1-14

第2段落では、話題が一段階フォーカスされ、翻訳レベルの制御について最近の知見が紹介されています。なのでキーワードはtranslation regulationとなります。

また、仮説(This led to the proposal that… )とリサーチクエスチョン(However…)が登場しましたね。「ハウスキーピング遺伝子の転写産物と熱ショックにより誘導された転写産物とを区別する仕組みがあると考えられているが、その実態はわかっていない」というわけです。

まだあと3段落もあるのに、早々に仮説とリサーチクエスチョンが出てきましたね。この後、どのような展開になるのでしょうか?

 

第3段落

In recent years, the principle of phase separation has emerged as a way to describe the assembly of SGs. Phase separation is a process by which a homogeneous solution of components, such as proteins, separates to form a dense phase (or condensate) that coexists with a dilute phase. Condensate assembly appears to be an ideal mechanism for stress adaptation for two reasons: (1) it is very sensitive to changes in physical-chemical conditions as they occur during stress, and (2) it can specifically regulate protein activities. In agreement with this idea, many proteins assemble into higher-order structures upon heat stress. The predominant view is that accumulation of insoluble proteins during heat stress is a result of uncontrolled protein misfolding. However, recent studies have suggested that some of the assemblies may be adaptive condensates. Similar findings were made in yeast subjected to starvation or pH stress. Importantly, preventing condensate assembly is associated with fitness defects. Why and how the condensates protect cells from stress, however, is still unknown.

 

Iserman et al., 2020, Cell 181: 1-14

翻訳レベルでの制御、具体的にはphase separationと呼ばれる現象がどのように行われているのか、カギを握るのはassembly of SGs(ストレス顆粒の凝集)のようですね。これがタンパク質のフォールディングの異常により起こるという説(The predominant view is…)と、適応現象として濃縮が積極的に起こるという説(However, recent studies…)があるが、よくわかっていない(Why and how … is still unknown)、と書かれています。前段落と同様、段落の最後に仮説とリサーチクエスチョンがセットになって記載されています。

 

第4段落

One component of yeast SGs is the essential translation initiation factor Ded1p. Ded1p is an ATP-dependent Asp-Glu-Ala-Asp (DEAD)-box RNA helicase. It resolves secondary structure in the 5′ untranslated regions (UTRs) of mRNAs to facilitate ribosomal scanning and identification of the start codon. Accordingly, changes in cellular Ded1p levels have dramatic effects on gene expression. Interestingly, Ded1p rapidly becomes insoluble upon heat shock, but the nature and function of stress-induced Ded1p assemblies have remained unclear.

 

Iserman et al., 2020, Cell 181: 1-14

 いよいよ主人公Ded1pの登場です。Ded1pとは一体何者なのか?について説明されています。翻訳開始因子Ded1p はDEAD-box型RNAヘリカーゼの一種で、熱ショックにより蓄積するのですが、「その特性や機能は分かっていない」というわけです。これが3回目にして最後のリサーチクエスチョンになります。

 

第5段落

Here we show that Ded1p acts as a stress sensor that directly responds to sudden changes in environmental conditions. We find that Ded1p phase separation is strongly correlated with the magnitude and duration of a heat stress stimulus and that Ded1p condensation occurs rapidly at temperatures above 39°C. Using time-lapse fluorescence microscopy and in vitro reconstitution biochemistry, we show that the heterotypic interaction of Ded1p and mRNA results in assembly of soft gel-like condensates that are reversible upon cessation of stress. We further demonstrate that condensate assembly represses translation of structurally complex housekeeping mRNAs, whereas structurally simple stress mRNAs, including those encoding heat shock proteins, escape translational repression. We propose that heat-induced phase separation of Ded1p drives an evolutionarily conserved extended heat shock response program that selectively downregulates translation of housekeeping transcripts and arrests cell growth.

 

Iserman et al., 2020, Cell 181: 1-14

はい、毎度おなじみの”Here we show …”が出てきました。このフレーズで始まる一文が、「この論文が何を示したか」を最も端的に表しています。

なので、1~4段落では「背景」と「問題提起」が書かれていたのですが、5段落では「解決方法&結果」が書かれていることが分かりますね。We find that …(第2文)、… we show that …(第3文)、We further demonstrate that …(第4文)と結果の概要が記載され、最後のWe propose that …(第5文)で結論が書かれています。第1文と第5文は、工夫された表現が用いられているのでハイライトを入れました。

 

次回の記事では、印をつけたところが具体的にどう良いのか、詳しく検証していきます。

 



英文校正にお金をかけるべき4つの理由

英語論文を書き終えたら、誰に原稿をチェックしてもらいますか?

大学院生やポスドクなら、共著者でもある指導教官やPI(研究室の主宰者)にみてもらうことになるかと思います。ラボから独立した後でも、かつての指導教官や知り合いの英語ネイティブ研究者に推敲をお願いするかもしれません。最終的に英文校正会社に依頼することもあるでしょう。

今回は、元バイオ研究者としてアメリカでのポスドク時代を含め英語論文を書いていた私の視点から、英文校正サービスを利用するメリットについて考えてみます。

プロに任せれば、やっぱり安心!

 

メリット1:査読者に良い印象をもってもらえる

投稿した論文はジャーナルの編集者を経て査読者の手に渡ります。査読者は多くの場合、当該分野の研究者で、単に論文の内容を理解するだけでなく、これを批判的に読み、論理に飛躍が無いか、参考文献の引用漏れが無いか、実験データに不足がないかなどを入念にチェックします。

「文法のミスを指摘されてリバイスになった」という話をよく耳にしますが、文法ミスの指摘は、本来、査読者の仕事ではありません。

ちょっと想像してみてください。もし自分が査読者だったら、文法的に間違っている、あるいは構造上読みにくい原稿を渡されたらどう思いますか?「忙しい中、無償で奉仕しているというのに、こんな読みにくい原稿をよこすなんて、いったいどこの誰だ?」って思いませんか?

査読のスタイルにもいろいろありますが、片側盲検やオープン査読の場合、誰が著者なのか査読者にわかってしまうのです。最終的に論文がアクセプトされたとしても、原稿の言語が未熟だと著者に対する評価は下がり、今後の引用件数やグラントの採択率にも影響しかねません。これは大変なリスクだと思いませんか?文法のチェックはもちろん、文の構造もよく練り直し、査読者にストレスを与えない原稿を投稿するよう心掛けたいものです。

研究者や英語ネイティブの知り合いに推敲を頼むと、確かに原稿は改良されますが、どこまで改良してくれるかは相手の能力と善意次第です。英文校正会社なら、最低限の文法チェックをする「梅プラン」だけでなく、文章の構造や論理にまで踏み込んだ「竹プラン」「松プラン」を用意しているはずです。予算の許す限り後者のプランを選びましょう。

 

メリット2:時間的コスパがよい

英文校正サービスのもう1つのメリットは、納期を決められることです。

知り合いに推敲を頼むと、相手も忙しい研究者ですから、どうしてもフィードバックに時間がかかってしまいます。英文校正サービスなら、納期に応じた料金プランが設定されていますから、予算に応じて納期を選ぶことが可能です。

研究分野にもよりますが、近年、特に中国からの研究者の参入により論文の数が激増した結果、以前よりもアクセプトまでの時間がかかるようになったという話を聞きます。「どうせリバイスになるだろうから、文法ミスは、査読者や編集者からのコメントが来てから直せばいい」と思っている人が意外と多いのですが、ミスが多いほど、やり取りの回数が増える、すなわちアクセプトまでの時間がさらに長引くのです。

投稿前に徹底的に修正しておけば、リバイスを受けたとしても、そのプロセスは短縮されます。投稿後に待ちぼうけをくらうぐらいなら、投稿前にしっかりと時間とお金をかけてリバイスにかかる時間が短くなる方が、断然いいと思いませんか?

また、英文校正サービスの中には、リジェクトされたりリバイスした論文の英文校正を引き受けてくれるところもあるので、是非活用しましょう。

さらに時間を短縮したいなら、本文だけでなく図や画像の編集を請け負っている英文校正会社もあるので、利用してみましょう。欧米の研究室ではテクニシャンが一括して図面編集作業を担っているといいます。日本でも大きな研究室ではそうしているかもしれませんが、研究費にゆとりが無いとなかなか難しいのが実情です。英文校正と合わせて図面編集を発注すれば割安になるケースもありますから、検討してみてはいかがでしょうか?

 

メリット3:コメントがもらえるので勉強になる

文章の修正というのは、実はとても骨の折れる作業です。論文は一つの建造物のようなもの。ある柱を別のものに取り換えたら、その他の柱も取り換えなければ、建物全体がゆがんでしまいます。いちいち取り換えるくらいだったら、初めから作り直した方が手っ取り早いこともしばしば。実際、多くのPIが、院生やポスドクのドラフトを丁寧に指導しようと試みつつも間違いを逐一修正することに疲れ、大幅に書き直して、さっさと投稿してしまうのです。

本当は、ドラフトのどこが良くないのか、クセも含めて指摘してもらうのが理想ですが、そこまで手間暇かけてフィードバックをくれるPIは稀でしょう。だから、「実験は若手、論文はPI」という分業体制のもと、いつまでたっても若手のライティングスキルが上がらないという現象が起きてしまうのです。

個人的には、若いうちは自己投資と割り切って「松コース」の英文校正に依頼し、しっかりとしたコメントをもらうのがいいと思います。実際、英文校正会社のなかにはNatureの元編集者がコメントをくれるという英文校正を提供しているところもあります。

本当に初心者(例えば大学院生)なら、以前の記事で取り上げた、論文の書き方を指導するオンラインコースを利用するといいと思いますが、「習うより慣れろ」とはよく言ったもので、ある程度の経験を積んだ後は、実際に書いたものを直してもらう方が勉強になります。

 

メリット4:盗用・剽窃をチェックしてくれる

イントロダクションの部分でよく見受けられるのですが、過去の論文に出てきた表現を(無意識のうちに)そっくりそのまま使ってしてしまうということが、しばしば起こります。同じ分野の論文では研究の背景が限りなく似てきますから、ある程度やむを得ないことではありますが、たとえ自分が所属する研究室の論文であっても盗用・剽窃は厳禁で、リジェクトの対象となってしまいます。

盗用・剽窃を防ぐには、原文を書き換える必要があります。一番簡単な方法は、同じ言葉を別の言葉に置き換えるやり方です。(ただし、ご注意ください。単純な言葉の変更だけでは盗用・剽窃を防ぐことはできません。文部科学省が盗用を含め研究不正行為に対するガイドラインを公開していますので、ぜひ一度読んでみてください。)

教養ある英語の書き方の基本に「一つの言葉を多用しない」というルールがあり、英語圏の人々は子どもの頃から、様々な語彙を用いるトレーニングを受けるそうです。例えば日記を書く時に「○○さんが~と言いました」というフレーズをよく使いますが、saidばかり使うと先生から書き直しを求められてしまいます(ちなみにsaidに代わる表現は50通りもあるらしいです)。同意語を探すためにシソーラスを使うよう指導されますし、文章を入力すると書き換え(paraphrase)てくれる無料ソフトというものも存在します。

さらに高度な技として、文章の組み立てから変えてしまうというやり方もあります。段落の最初に<結論>を書き、次にその<具体例や証拠>を示し、最後に<結び>の文でまとめるというのが一般的な段落の構造ですが、各パート<>ごとに2~3通りの文を用意すれば、最大20通り以上のバリエーションが生まれます。

私たち日本人は文法的に間違っていなければいい、論理的に通じればいいというレベルで満足しがちですが、英文校正会社には訓練を受けた多くの英語ネイティブの専門家がいますので、是非、彼/彼女らの力を借りましょう。また盗用・剽窃をチェックするためのAIを用いた様々なツールも開発されており、英文校正サービスのオプションに組み込まれていることがありますので是非活用したいものです。

 

結論:英文校正サービスを使うことは結果的に自己投資になる

英文校正サービスを利用するのには確かに出費が伴いますが、長い目で見れば、その出費は必ず良い結果につながり、何より自己投資になるということがおわかりいただけたでしょうか?もちろん、お金を払う以上、校正サービスは慎重に選びましょう。英文校正会社の比較サイトなどを活用するだけでなく、試しにアブストラクトを数社に校正に出して、気に入ったところを選ぶのも一つの手です。

 

論文のイントロダクションの書き方【1】よいイントロのインプットを蓄える

研究者にとって論文執筆は最も大事な仕事の1つですが、論文を書くときに一番頭を悩ませるのはどの部分ですか?

おそらく、イントロダクション(序論)でしょう。イントロダクションは、読者を想定しながら研究の背景を伝え、仮説やリサーチクエスチョンを提示し、解決方法を明示する重要な部分です。ディスカッションとの整合性も見据えながら、過去の知見を丁寧に引用することも求められます。

論文の書き方に関する本や記事は数多くありますが、今回は「イントロダクションを書き始める前の準備」について考えます。

論文集積

まずは気に入った論文を集めましょう

 

イントロダクションを斜め読みしていませんか?

「書く」という作業は言うまでもなくアウトプットです。良いアウトプットを出すためには、良いインプットを蓄えなくてはなりません。既に皆様は多くの論文を読まれてきていることと思います。特に同じ分野の論文やライバルの論文には隈なく目を通していらっしゃることでしょう。

でも、限られた時間の中で論文を読むとなると、初めから終わりまで丁寧にというわけにはいきませんよね。まずはアブストラクト、次に結果、最後にディスカッションに目を通すのが一般的でしょう。自分の論文を引用してくれたかどうか気になって、先にリファレンスをチェックするかもしれません。

あれ、イントロダクションは?

そうなんです。書く時には、あれほど苦労するイントロを、読むときには斜め読みしてしまうのです。

なぜでしょう?皆さんはその分野のプロですから、もうイントロなんて読まなくても大体のことが頭にはいっているからです。

もちろんイントロを熱心に読む場合もあります。それはおそらく自分が論文を執筆するときでしょう。引用文献をもう一度じっくり読み返し、またこれらを参考にしながら、自身のイントロのアイディアを練るのです。となると、丁寧にイントロを読むのは自分の同業者の論文に限られてきますね。

 

良いイントロは門外漢にもすんなりわかる

これはいささかもったいないことだと思います。もともと私の専門は細胞生理学で、研究者時代はごく限られた分野の論文しか読まなかったのですが、ライターとして研究者の方にインタビューをさせていただくようになってからは、下調べのために様々な分野の論文に目を通しました。そして、分野が少々違っても、

良いイントロはスムースに読めてしまう

ことに気がつきました。もちろん知らない単語は出てくるのですが、論理の構成が見事な論文は、細かい内容が分からなくても頭にすんなり入るのです。

なので、あえて

良いイントロを探すためだけに、専門外の論文も読んでみる

ことを提案したいのです。

「自分の分野をフォローするだけでもやっとなのに、その他の分野の論文を読むなんて無理…」と思われるかもしれません。でも、どうぞ難しく考えないでください。細かい内容まで理解する必要はありませんし、あくまで、良く書かれたイントロダクションの例を探すための作業です。面白くない or ややこしい論文はさっさとスルーで構いません。

 

目を通すべきジャーナルとは?

では、どのような論文を読めばよいのでしょう?あまりにも分野が違いすぎると理解に時間がかかってしまうので、おススメは「少しだけ分野が異なるジャーナル」、具体的には

「自分が共同研究をするとしたら、この辺り」くらいの領域

をターゲットにしましょう。

その分野に興味がありつつも、あまり詳しくないあなたは、初心者の立場から、新鮮な気持ちでイントロを読むことになります。そして、「この説明、わかりにくいな」とか、「この切り口は面白いな」など、多くの気づきを得ることができるでしょう。

もう一つのおススメは

対象分野の幅が広いジャーナル

です。いわゆるCNS(Cell、Nature、Science)やPNASですね。既にチェックなさっている方も多いと思いますが、幅広い読者を対象としているので、イントロに限れば、非常に読みやすいのです。

また、語数制限が厳しいNatureやScienceはイントロ部分のパラグラフが1個程度ですが、より長いCellやPNASは数段落で構成されているので、両者を比較して読めば、文章の長さに応じたイントロの構成の違いも学ぶことができます。

個人的に気に入っているのはCellです。私自身が生物出身ということもありますが、論文の概要を表すGraphical Abstractが載っているので、この図を見てから読むと門外漢でもスムースに頭に入りますし、図の作り方の勉強にもなります。

ノーベル生理学医学賞受賞者のサー・リチャード・J・ロバーツがノーベル賞をとるための10か条で"Study biology"と提案しているように、生物学は未知のトピックの宝庫です。物理や化学、あるいは数学を専門としている人にとっても、Cellに目を通すことで新しいテーマや共同研究者を探すヒントが得られるかもしれません。

 

「イントロ集」を作るための3ステップ

これは!と思う論文を見つけたら、ストックしていきましょう。文献管理ツールで論文を整理していらっしゃる方も多いと思いますが、ぜひ、プリントアウトしていただき、次の3つを試してみてください。

Step1:仮説やリサーチクエスチョンをペンで囲む

イントロダクションは大まかに(1)背景(2)問題提起(仮説・リサーチクエスチョン)(3)解決方法のパートからなっています。真ん中に来る(2)のパートを囲むことで、

イントロの構成が一目で分かる

ようになります。イントロの構成に関しては、研究者の方が書いていらっしゃる次のサイトが大いに参考になります。

Step2:背景のキーワードをチェック

よく言われることですが、イントロの出だし、つまり背景の部分は

初めは広く、読み進むにつれ狭く

書かれています。イントロの最初の数行が分かりやすく書かれていると内容がすうっと頭に入りますよね。そして最初は肉眼で見ていたものを、虫眼鏡→光学顕微鏡→電子顕微鏡の順にズームしていくような感覚で話題がフォーカスされ、問題提起にたどり着くのが理想です。

一般的な論文では、イントロの段落ごとにキーワードがあるはずです。NatureやScienceなど、イントロが1段落しかない場合は、1つのパラグラフに複数のキーワードが出てくることになります。話が進むにつれて

キーワードもフォーカスされていく

ことを確認してみましょう。

Step3:心に刺さる表現にハイライト

イントロ集を作る最大の目的は、良い表現を集めてインプットすることです。

これは使える!というフレーズをハイライト

しましょう。

論文に出てくる便利な例文は多くの本や記事で紹介されていますから、わざわざ自分で集めなくても、と思うかもしれません。でも、例文集を手元に置くだけでは、なかなかインプットされません。「エピソード記憶」という言葉をご存知の方も多いかと思いますが、

ワクワクしながら出会った表現こそ、容易にインプットされる

そうですから、自分が興味を持てる論文から良い表現を探すのは効果的です。

 やることは、以上です。あとは、ハイライトされた論文を「イントロ集」とラベルしたファイルにストックしておけば、あなただけのイントロ集の出来上がりです。こうしておけば、きっと論文の執筆中にも自然に適切な表現が思い浮かぶはずです。あくまで私がやっている方法ですが、ご参考になれば幸いです。

 

論文執筆に役立つ書籍のご紹介 

最後に、論文執筆に便利な表現を集めた本もご紹介しますね。

理科系のための 英語論文表現文例集 | 藤野 輝雄 |本 | 通販 | Amazon

科学論文の英語用法百科〈第1編〉よく誤用される単語と表現 | グレン パケット, Paquette, Glenn |本 | 通販 | Amazon

 

次回はわかりやすいイントロダクションの具体例を見ていきたいと思います。

 

どうすればノーベル賞をとれるのか?

今年もやってきました!秋と言えば、そう、ノーベル賞の季節ですね。ノーベル賞をとるなんて夢のまた夢ではありますが、ノーベル賞をとるような独創的な研究をしてみたいと、思う方は多いのではないでしょうか。2020年に受賞した研究をご紹介しつつ、過去の受賞者のあゆみから独創的な研究をするためのヒントを探ります。

ノーベル賞メダル

ノーベル賞を受賞するのは1億人中たった1人だけ

2020年ノーベル賞は?

2020年はこちらの自然科学・医学系の研究がノーベル賞を受賞しました。解説サイトのリンクをご覧ください。

残念ながら日本人の受賞はかないませんでしたが、ノーベル化学賞の受賞対象となったゲノム編集技術「クリスパー・キャス9」には、九州大学の石野良純教授が1987年に発見した「クリスパー」と呼ばれる遺伝子配列が使われています。ちなみに「キャス9」はクリスパーを目印にDNAを切断する酵素のこと。切断したい遺伝子配列にクリスパーを組み込みさえすれば、どんな配列でもキャス9が切断するという仕組みです(詳しくはこちら)。

ある遺伝子配列を特異的に切断する制限酵素は、今でこそ分子生物学のありふれたツールですが、「制限酵素の発見」も1978年に生理学・医学賞を受賞していますね。また、その後、多くの制限酵素を見つけたサー・リチャード・J・ロバーツも1993年に「分断された遺伝子の発見」で生理学・医学賞を受賞しています。

どうすればとれる?ノーベル賞

さて、今回、大それたタイトルを掲げてしまいましたが、どうすればノーベル賞がとれるのでしょう?受賞に至らずともノーベル賞級の仕事をしてみたい、ターニングポイントとなる新発見をしてみたい、というのは科学者なら誰しも抱いている夢ではないでしょうか?

検索してみたら面白い本を見つけました。

凡人が行ってはいけない禁じ手3つ+秀才でなくてもできるおススメ8か条+奥の手2つが紹介されています。なんと、筆者の石田寅夫博士によれば、ノーベル賞接触感染するのだそうです!今すぐノーベル賞受賞者がいるラボにポスドクをアプライしなくては…と思った方、記念写真を一緒にとるだけで大丈夫とのことです。なんともユーモラスなアドバイスですね。

また、ノーベル賞受賞者本人がノーベル賞をとる秘訣について明かしているサイトもありました。

前述のサー・リチャード・J・ロバーツによるTen Simple Rules to Win a Nobel Prizeが紹介されています(別のサイトで和訳も紹介されていますので合わせてどうぞ)。こちらも真面目半分、ユーモア半分の10か条になっています。

リチャード博士は近日中(2020年11月24日)に

と題する講演をオンラインで行うとのこと。専用サイトに登録すれば無料で視聴できます。是非こちらもチェックしたいですね。

研究テーマの選び方

石田博士やリチャード博士の主張には共通点があります。

  • その当時の最大課題を追求しない(石田博士の禁じ手3)
  • 他人がやりそうもないテーマで、自分の弱点を生かせるものを選び、こつこつがんばる(石田博士の第3法則)
  • これからノーベル賞をとる研究者がいるラボで働く(Try to work in the laboratory of a future Nobel prize winner:リチャード博士の第6ルール)

つまり、

今は注目されていない萌芽的な課題を研究テーマに選ぶ

ということです。

これ、とっても大事です。大学院生にしてもポスドクにしても、つい業績の出ている研究室や研究費を多く獲得している研究室を選びがちです。決してそれは間違いではありませんが、その選択が本当にあなたのためになるかどうかは慎重に検討した方がいいのです。

研究にも流行りすたり、というものがあります。まだ誰も注目されていない分野で新しい発見が起こり(黎明期)、この分野が面白そうとわかると他の研究者が参入し(発展期)、やがてホットな分野として論文が量産される(繁栄期)というのが大体のパターンです。

繁栄期を迎えた分野や研究室にいると、確かに論文は出しやすいのですが、競争相手もゴマンといます。競争が激しいと論文を発表するサイクルも短くなり、じっくり考えるよりも、とにかく手を動かしてデータを出すことを求められます。そうこうしているうちに、研究者として一人前になるためのトレーニングを十分に受けることなく、業績だけは揃ってしまうなどということが起きるのです。ラボのPIは大御所として安泰な研究生活を送っていますが、自分はまだこれから何十年と研究者として生きていかなくてはならないのに、これでは遅かれ早かれ研究に行き詰ってしまうでしょう。

活気のあるラボにいると同僚から多くの刺激を受けますし、最先端の情報もたくさん入手できるので、メリットはあるのですが、いつかはそこから脱却してブルーオーシャンに飛び込み、自分で新たな黎明期を作るくらいの覚悟が必要なのです。

大隈良典博士のあゆみ

具体的な例をご紹介しましょう。ご存知の通り、大隈良典博士は2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞された方です。「オートファジー」と呼ばれる細胞内の分解機構を分子レベルで解明し、受賞に至りました。こちらの資料によれば、酵母のオートファジーを発見したのが1988年、オートファジーに関する遺伝子を特定したのが1993年だそうですが、それまでに発表した論文の数や獲得した科研費は決して多くはないことがお分かりいただけるかと思います。科研費がもらえなかった年もある(!)くらいです。

かつて大隈博士はインタビューで「科学の道を志すのであれば、人がまだやっていないこと、そして自分が心底面白いと思えることをやってほしい」と語ったそうです。いたずらに流行りを追うのではなく、

自分の興味を愚直に追求すること

が、結局は良い仕事をするための近道なのかもしれません。

かならずしも研究者として成功しなくてもいい、いざとなればアカデミアの外に出ていけばいいと腹をくくれば、むしろ安心して自分の道を究められるのではないでしょうか。iPS細胞の研究で2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥博士も、成果がなかなか出なかった時期は、「いざとなったら整形外科医に戻ればいい」と思っていたそうですよ。

 

理系ドクターの就活事情【3】適職に出会うための3つの戦略

文部科学省の発表によれば、現在、日本にはポスドクが約1万5千人、博士課程在籍者が7万5千人弱いるとのことです。

でも、そのうちアカデミックの世界に残るのはごくわずか。このまま研究を続けることに違和感を感じている方もいらっしゃることでしょう。

ただ、研究室の中にいるとアカデミア以外の世界で働く人に接する機会が少ないうえ、ロールモデルとなる先輩もあまりいないので、「将来に対する具体的なビジョンが描けない」あるいは「いざアクションを起こそうと思っても何をすればいいのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、アカデミア以外の世界で活躍する博士号取得者のあゆみから、適職に出会うために取るべき行動の指針を探っていきたいと思います。

ポスドクが適職に出会う-イメージ画像

ゴールにたどり着くための戦略とは?

 

見事プロダクトマネージャーに転身したポスドク

カリフォルニア大学アーバイン校の大学院で分子生物学・生化学を専攻していたIssa Moodyさん。当初はアカデミアに残る選択肢も考えていたものの、次第に、大学ではなく企業で研究を続けたいと思うようになりました。

そこで60社以上に応募したのですが採用には至らず、学位取得後は、しかたなくX線結晶構造解析を手掛ける研究室のポスドクとなりました。心機一転、ポスドク配属と同時に就職活動を再開。「1年半たっても就職先が見つからなければMBAを取る!」と背水の陣を敷きました。そして結果は・・・残念ながら、やはり就職先は見つからず、結局MBAを取得するため、再度、大学院に進学することになりました。

ところが、これが転機となり、MBAを取得した後に見事、プロダクトマネージャーとして就職に成功したのです。詳しくはnature jobsのこちらの記事をご覧ください。

Issaさんのあゆみは私たちに多くのヒントを与えてくれます。

 

【戦略1:まずは方向転換してみる】

Issaさんの記事を読んで、ホリエモンこと堀江貴文さんの、「運やチャンスの正体について(4:25あたりから)」の対談を思い出しました。

桃太郎の話に出てくるお婆さんの取った「ある行動」にこそ、運をつかむヒントがあるというのです。その行動とは「川に流れている桃を拾ってみた、しかもそれを割ってみた」こと。

当時、多くの人が毎日のように洗濯をしていたことでしょう。そして、その川には、どこかの木から落ちてしまった桃が何個も流れてきたことでしょう。「あらやだ、また桃が流れてきたわ」なんて言いながら、ほとんどの人はその桃を無視して、目の前にある洗濯という仕事に集中していたのです。

ところが、そのお婆さんは他の人とは違っていた。桃を拾い、しかも割ってみた。この行動こそが、桃太郎というヒーローを生み出し、ひいては鬼を退治するという悲願をかなえるきっかけとなったというのです。

前述のIssaさんは、まさにMBAという「桃」を拾い、割りました。目の前にある研究という仕事だけに集中するのではなく、

あえて違うことをやって方向転換してみる

そのおかげで、プロダクトマネージャーというゴールを見出すことができたのです。

MBAという「桃」の存在を知っていても、それを実際に「拾う」理系の大学院生やポスドクはごくわずかでしょう。でも、少しアンテナを広げて、勇気を出して、違う一歩をふみだしてみませんか?就活サイトに登録してみる、インターンに参加してみる、企業とコンタクトを取ってみる、どんなことでも構いません。できることから、まずは一歩を踏み出しましょう。

 

【戦略2:オンリーワンを目指すなら「掛け算」で勝負】

1つのことにずば抜けて優れた人ならいざ知らず、多くの人は残念ながらそうではありません。よく言われることですが、複数の得意分野をもつことで、他の人には無い自分だけの価値を高めることができます。Issaさんのケースを式で表してみると、

分子生物学×MBA=プロダクトマネージャー

となるでしょう。

そもそも、IssaさんはなぜMBAを取るということを思いついたのでしょう?記事には直接のきっかけは書かれていないのですが、興味深いエピソードが紹介されていました。

実はIssaさんが所属していたラボではプラスミドDNAの管理がずさんで、あるはずのプラスミドが紛失し、これを一から作り直すということが時々起こったそうです。

そこで彼は、QRコードEvernoteを使ってプラスミドを一元管理するシステムを構築。おかげでラボの人たちは以前のように無駄にプラスミドを作る必要が無くなりました。

問題を発見し、それを解決するという経験を通して、Issaさんは自分に品質管理や効率化といったビジネスの才能があることに気づき、そこからMBAという「項」を自分のキャリアに掛け算することを思い立ったのではないでしょうか?

皆さんが今まで取り組んできた課題の中にも、きっと

掛け算の「項」が隠されている

はずです。

Issaさんだけではありません。日本でも多くのドクターたちが掛け算で勝負し、夢をかなえています。詳しくは以下のサイトをご覧ください。

    天文学×外資系証券会社=宇宙ベンチャー企業社長

    理論物理学×生物学=コンサルタント

    生物学×コンサルタントベンチャーキャピタリスト

 

【戦略3:自己投資する】

Issaさんはポスドクを経てMBAを取得するという行動に出ましたが、これは方向転換であると同時に自己投資でもありました。

MBAのために大学院に通う間は仕事ができないばかりか学費もかかります。収入が無いだけでなく、出費を伴うのです。とりあえず就職しようと思えば、いくらでも他の選択肢もあったはずですが、そのような中、キャリアを中断してまで大学院に進学するというのは、大変な覚悟が必要です。

しかし前述のように、「掛け算」の項を増やし、自分の強みを広げておくことは、キャリアアップにおいて、とりわけキャリア形成の初期段階では、とても重要です。

必ずしもMBAである必要はありません。前述の盛島さんは、大学院時代に学内で定期的に行われていた夜間講義に通ったと言います。そして講義で知り合った人を通じて、とある研究所のリサーチインターンに参加、学位取得後はその研究所に配属が決まり、このことが現在のキャリアにつながったそうです。

目先の仕事だけに没頭するのではなく、

仕事と並行して自分の成長のために時間やお金を投資する

一見、回り道とも思えるこの行動が、後のキャリアに活かされてきます。

となると、契約社員や任期付きのポジションの方が、実は自己投資には有利かもしれません。とりあえず就職してお金を貯め、任期が切れたところで自己投資モードに切り替えるのもアリです。今はMBAもITスキルもオンラインで学べる時代ですから、もちろん、仕事を続けながら自己投資するのもいいでしょう。コロナショックの影響で求人が減り、安定した仕事に就くことが難しくなっていますが、このピンチを自己投資のチャンスに変えてみませんか?

 

直進するだけではなく方向転換ができる人、目先の仕事だけでなく自己投資ができる人は、世の中が大きく変わっても、きっと新たなゴールを見つけられるはずです。そのような人こそ、ポストコロナ、ウィズコロナの時代に求められる人材ではないでしょうか。

 

是非、以下のサイトも参考にしてみてください。

 

jrecin.jst.go.jp

www.enago.jp

 

 

   

 

 

 

 

理系ドクターの就活事情【2】ズバリ、おすすめの職種はコレ!

前回はドクターならではの自己分析をご紹介しました。「私は△△が苦手だから研究者を諦める」のではなく「私にも〇〇をする能力が備わっている」という風に、自分に対する見方を変えましょう(まだ自己分析をなさってない方は、ぜひ前回の記事「理系ドクターの就職事情【1】あなたはどのタイプ?」でセルフチェックをしてみてください)。

今回は、いよいよ具体的な職種、それも研究以外の分野に焦点を当てて見ていきたいと思います。より求人が少ないと言われている基礎研究の分野を専門としていたドクターにも応募可能な求人をご紹介します。

よ~く探せば、きっとあなたにピッタリの職種がありますよ!

弁理士

昔から博士課程を出た後の進路として人気がある職種です。

弁理士は「特許や実用新案などを申請するお手伝いをする」仕事です。理系の専門分野の知識に加えて、法律の知識や特許明細書を作成する文書作成力、そして顧客とのやり取りを行うコミュニケーション力が求められます。

弁理士になるには弁理士試験に受からなければなりませんが、博士号を持っていると一部試験が免除になります。また、特許事務所で働きながら弁理士試験を受けることも可能です。実際、特許事務所の求人を検索すると、確かに弁理士の資格や特許明細書の作成経験は歓迎されますが、必須ではないケースも少なくありません。

さらに知的財産に関する経験や知識があれば、将来的に製薬会社の特許部門やコンサルティング会社などでのキャリアにつながる可能性も見えてきますね。

 

弁理士試験の制度について

弁理士として働いている博士保持者の方の話

弁護士youtuberによる特許法解説動画

 

データ解析

コロナショックで情報産業のニーズは、ますます高まっています。中でもデータ解析は統計学情報科学専攻の方、また物理・化学を専門にしてきた理論系の方におすすめの職種と言えます。一部のコンサルティング会社では「データサイエンティスト」として採用しています。

また、年収や任期を問わなければ、「未経験でも学習経験があればOK」という求人もあります。オンライン講座を受講して修了証をもらい、まずは未経験OKのポストでキャリアをスタートさせる、というアプローチもアリです。

 

データサイエンティストの仕事概要

物理学を専攻し、データ解析の仕事についている方の紹介動画

在宅で受講できる!プログラミングのオンライン講座

 

コンサルティング

「理系だけど実はプログラミングは苦手…」「バリバリの生物系で理論はさっぱり…」という方、諦めないでください!データサイエンティスト以外のポストでもコンサルに就職するチャンスはあります。中には生物系の博士を採用しているコンサルもあるのです。

なぜでしょうか?ライフサイエンスは創薬や新規治療法に直結する分野で、感染症やがんの治療のニーズが高まる昨今、ビジネスチャンスが拡大しているから、というのも要因かもしれませんが、より本質的な理由は「生物学の研究で培ったスキルが、まさにコンサルの仕事に求められるスキルそのものだから」でしょう。

生物学では比較的複雑な系を研究対象とするので「いかに複雑さの中からシンプルなパラメーターを抽出し、実験的に実証するか」が最大の課題です。また、相手が生き物ですから、実験の過程で予期せぬハプニングが多発しますし、しかも対象が「生きている間に(=活性を保っている間に)」ハプニングを解決しなければならないという厳しい時間的な制約もあります。

これらのプロセスは、実は「複雑な世の中の状勢を見極め、実現可能なゴールを設定し、限られた時間と予算の中でそれを達成する」というコンサルに求められるニーズそのものではないでしょうか。もちろんバイオ系以外の研究者の皆さまも、日々、このような課題と格闘していらっしゃることと思います。ご自身の研究生活で経験した山あり谷ありの試行錯誤の過程は、唯一無二のアピールポイントになるはずです。

コンサルタントとしての実績を積めば、研究者を学術的にサポートするプラットフォームで、フリーのコンサルタントとしても活躍できそうです。

 

物理・生物学を専攻して外資コンサルに就職した方の話

バイオ出身のドクターでコンサルに就職した方の事例

 

メディカルサイエンスリエゾン(MSL)

コロナショックで景気が低迷する中、比較的堅調な業界といえば製薬業界でしょう。ただ、医学・薬学または化学を専攻した方に対しては研究・開発職の求人があるのですが、生物専攻者に向けた求人は数が限られてしまいます。

ですが、まったく無いわけではありません。メディカルサイエンスリエゾンもその一つ。日本では聞きなれない職業ですが、PhD取得者を歓迎する職種として注目を浴びています。

平たく言えば「新しい薬について、販売目的でなく学術的な知見に基づいて、医師や研究者向けに発信する」仕事です。販売目的でしたらMR(医薬情報担当者)がよく知られていて、薬剤師の資格が必須なのですが、MSLは、より学術的な側面の強いポストで博士号保持者を歓迎しています。

求人を検索すると腫瘍学分野での募集が目立ちます。がん研究を行っている研究室でポスドクをしてからMSLになるというキャリアパスもありそうですね。私自身もMSLの資料作成を手伝った経験があるのですが、学会用のパワーポイント資料を作成した経験が大いに役立ちました。情報収集力、プレゼンテーション力を活かしたいバイオ系PhDにおススメです。

 

MSLとPhD

MSLとMRの違いについて

公益財団法人がん研究会のポスドク公募情報

 

学術翻訳・校正者など学術出版業務

論文を書くのが好きという方に、是非、お勧めしたいのが学術翻訳者・校正者です。英語の論文を読んだり書いたりしてきた経験をダイレクトに活かせる職種です。翻訳業界にもAIの波が押し寄せ、翻訳者の求人が減っているのではないかと危惧している方もいらっしゃるかもしれませんが、学術論文のように高度に専門的な内容を扱う文書の場合は、話は別です。論文を論理的かつ説得力ある文章にリライトしたり、カバーレターをより訴求力のある文体に仕上げたりといった作業は、やはり研究の現場にいた人でなければできません。

また、学術出版系の会社に就職するのも手です。例えばnatureを出版しているSpringer nature group社は日本にも支社を持っていますが、自社サイトで採用情報を公開しています。編集業務やメディカルライターはもちろん、営業職にも研究に従事した経験が活かせそうです。

 

学術翻訳・校正者として働いているPhD

学術出版関連会社に就職した方の話

シュプリンガー・ジャパンの求人例

 

リサーチアドミニストレーター(URA)

URAはひと言でいうと、大学での研究をサポートする仕事です。業務内容は、産学連携、特許申請、助成金申請の支援からアウトリーチ活動の促進やイベントの企画まで、実に多岐にわたります。

URAとして働いている方々のキャリアも様々です。研究畑一筋の方もいれば、特許事務所やコンサルティング会社での経験を経てURAのポストに就く方もいます。学位を取ってすぐURAになる方は少数派で、ポスドクや企業での経験を積んでからという方が多いようです。

この制度が本格化してから5~6年ほどしか経っていないので、アイディア次第で新しいプロジェクトを立ち上げるチャンスもあるかもしれません。URA制度を導入している大学は全国で15大学ですが、求人はコンスタントに出ていますので、是非トライしてみてはいかがでしょうか。

 

京都大学学術研究支援室の様子

東北大学研究推進・支援機構URAセンターのメンバー紹介

URA求人情報

 

いかがでしたか?この職種、おもしろそう!と思えるものがあったでしょうか?なかったとしても焦る必要はありません。エージェントで探せば、ここにご紹介した以外にも様々な選択肢があります。次回の記事では、見事アカデミアの世界から転身して就職に成功した方々のあゆみをご紹介し、適職を探す戦略を探ります。