ヒロコのサイエンスつれづれ日記

フリーのサイエンスライターです。論文執筆・研究・キャリアについて発信していきます。

論文代行の罠: 安心の道を選ぶ知恵

近年、学業の圧力や締切に追われる中で、論文執筆の代行サービスが増えているようです。しかし、ラクして大学を卒業したり、アカデミックなキャリアを積むという誘惑には、もちろん裏があります。

代行執筆の不正が露呈した際の処罰、そして合法に受けられる研究支援(英文校正業者など)との違いについて考えてみましょう。

 

論文の代行執筆とは?

最近は人づてよりネット上の検索などで執筆代行業社を見つける人が多いようです。個人間でのやりとりなので、相場や納期などは明らかにされていません。

 

代行執筆は以下のようなプロセスで行われます。

①依頼

学生や研究者は、論文代行サイトや個人の執筆者に代行の依頼をする。

トピックや分野、必要ページ数、締切などの依頼内容を打診する。

②料金の合意

代行提供者との間で、料金や支払い条件についてネゴシエーション

料金は依頼内容や緊急度によって異なるようです。

③執筆と納品

代行者は依頼内容に基づいて論文を執筆し、納期までに納品。

この段階で、依頼者の関与はほぼないか、最低限の承認や修正のみとなることが多い。

依頼から納品まで、すべてオンラインで行われることがほとんどのようです。

 

代行執筆の不正とバレた時の処罰

論文代行の誘惑に負けてしまうと、思わぬリスクを抱えることになるかもしれません。大学や研究機関は学術倫理に厳格な基準を持ち、不正行為は重大な問題として取り扱われます。もし代行が発覚すれば、以下のような厳しい処罰が考えられます。

単位の剥奪: 代行によって取得した単位が無効となる可能性があります。これは学業成果の否定であり、卒業資格に影響を及ぼす恐れがあります。

 

不正行為の記録: 学術不正は学内の記録に残され、これが就職活動や他の教育機関への進学にも影響しかねません。

信頼の失墜: 不正が発覚すれば、当然のことながら、名前や信頼性に大きな傷がつく可能性があります。将来のキャリアにも影響を及ぼすかもしれません。

退学や解雇: 最悪の場合、代行行為が明るみに出れば退学や解雇の対象になることも考えられます。

 

英文校正業者: 安心の選択肢

一方、英文校正業者の提供する投稿支援サービスなどの論文の品質を向上させる手段を利用することは、合法で有益な方法です。英文校正業者はあなたのアイディアや研究内容を尊重しながら、表現や文法の改善を支援してくれるだけでなく、フォーマットや図表の調整や、少し値は張りますが、引用や論文全体の構成の提案、ひいて投稿先のジャーナルの提案まで担ってくれます。

学習の機会: 英文校正業者は、単に誤字脱字を修正するだけでなく、適切な表現方法や論理的な構成のアドバイスも提供してくれます。これにより、自身のスキル向上に繋がる学習の機会となります。

信頼性: 正当な英文校正業者は、あなたの論文を第三者に流すことなく、プライバシーと機密性を保持します。これによって、不正行為のリスクを回避できます。

アカデミックな成果: 英文校正業者のアドバイスに従って論文を改善することで、論文のアカデミックな成果が正当に評価されるチャンスが増えます。

信頼性の維持: 正当な手段で論文を完成させることは、学問の世界での信頼性を保つ上で重要です。自身の努力と成果を称えられることで、将来のキャリアにプラスになるでしょう。

 

まとめ

論文執筆の代行サービスは、楽な解決策に見えるかもしれませんが、その裏には大きなリスクが潜んでいます。学業の不正は避け、合法的で信頼性のある方法で論文を向上させる道を選びましょう。もちろん、自分で研究を実施し、論文を書く事が大前提ですが、サポートが必要と感じたら研究支援業者は存在します。英文校正業者は、あなたの論文執筆のスキルアップとアカデミックな成果を上げるサポートをしてくれる頼りになる存在です。学問の世界での成功の礎を築くために、賢明な選択をしていきましょう。

「国際卓越研究大学」の可能性と懸念

みなさん、こんにちは。

「国際卓越研究大学」をご存じですか?

日本政府が10兆円という巨額の資金を用意し、世界トップレベルの大学づくりを支援する新しい取り組みとしてつくられた制度です。

この制度によって支援を受ける大学は、厳しい審査をクリアする必要があり、現在、東京大学京都大学東北大学の3校が候補として選ばれ、秋ごろに正式な決定が行われる予定です。

この制度が大学の研究力向上にどのような影響をもたらすのか、そしてビジネスへの波及効果はどのようなものになっていくのか期待は高まりますが、しかしながら、この新制度にはさまざまな問題点も指摘されています。

今後のビジネス展開を見据える上で、日本の大学支援政策についての理解を深めておくことが重要です。

科学技術振興機構JST)による運営

この制度の特徴として、10兆円の資金が一気に大学に支給されるのではなく、「大学ファンド」が設立され、科学技術振興機構JST)がこれを運用する点が挙げられます。

この運用益から、各大学に最長25年間にわたって支援金が提供される仕組みです。

たとえば、東京大学の2021年度の経常収益が2641億円であることを考えると、年数百億円の支援金は大きなインパクトを持つことでしょう。

なぜこのような制度が導入される必要があったのか。

実は、日本の研究力が年々低下しているという背景があります。文部科学省の分析によれば、日本は研究開発費の面ではアメリカや中国に続く3位を誇りますが、論文数や引用数といった指標では徐々に後退しています。

これからの社会において、研究力の強化が不可欠であることは言うまでもありません。

こうした背景から、「国際卓越研究大学」制度が生まれたのです。

審査ポイント

この制度を受ける大学には、いくつかの審査ポイントが設けられています。

まず、国際的な優れた研究成果を生み出せる研究力が求められます。

また、年3%程度の事業成長や意欲的な財務戦略、大学運営の体制づくりも審査の要素とされています。

具体的には、直近5年間で「トップ10%論文」と呼ばれる注目論文の数が1000本以上であることなどが基準となります。

さらに、大学内外の委員から成る「合議制の機関」の設置も求められ、大胆なガバナンス改革が必要とされています。

懸念材料

ただし、この制度にもいくつかの懸念が指摘されています。

まず、支援金の運用益を確保すること自体が容易な課題ではありません。

昨年度、運用を開始したJSTは上半期だけで1881億円の評価損を計上しており、安定した運用結果が得られるかは不透明です。

また、大学に年3%の成長を要求することも懸念材料でしょう。

この数字は事業規模を25年で倍にする要求であり、簡単な課題ではないからです。

その結果、稼げる研究や政府・産業界からの資金を得やすい研究が重視され、他の研究が軽視される可能性があるため、学問の自由や大学の自治が損なわれる懸念も浮上しています。

実際、大学の研究力低下の背景には、政府が推進してきた「選択と集中」政策が影響しているという指摘もあります。

2004年に国立大学が独立法人化し、運営費交付金を削減して競争的資金を増やす方針を採った結果、一部の大学に資金が集中し、中堅大学は資金難に苦しむ状況となりました。

その結果、研究の多様性が損なわれ、基礎研究への投資が減少していると言えます。

こうした現状を踏まえ、「国際卓越研究大学」制度が導入されたわけです。

この制度の問題

一方で、この制度もまた、選択と集中の問題を引き起こす可能性があることは否定できません。

一部の大学に集中した資金や人材が、他の大学を圧倒してしまう恐れがあるからです。

大学側もこの問題に対して危機感を持っており、例えば東京大学は学問の多様性を重視し、必ずしも即効性のある成果を求めず、人文・社会科学などの分野も支援する意向を示しています。

また、地方大学への支援も検討されています。

しかし、政府は選択と集中路線の総括や検証を行っているわけではないため、この新制度も同様に問題を引き起こす可能性があると言えます。

目に見える成果だけを求める姿勢は、長期的な研究力の低下を招く可能性があるからです。

国のイノベーション力が低下すれば、最終的には国全体の力が低下することにつながることでしょう。

 

おわりに

自分の通う大学で行なわれている研究内容を確認することで、将来のビジネス展開に役立つ情報を得ることができるかもしれません。

新たな大学支援制度が、日本のイノベーションをどのように後押しするか、目が離せない状況です。

「女性限定公募」への不満で見える典型的なマイクロアグレッション

女性研究者の少なさ

2022年、東北大学東京工業大学が教授や准教授への応募を女性に限る「女性限定公募」を実施して話題になりましたね。

海外の理工系大学たとえばジョージア工科大学でも教員の女性比率は25%ぐらいですが、日本アカデミアの女性比率は、2020年で17%程度です。

このとき、東工大では女性限定公募は、8部局、つまり東工大の全部局同時の取り組みで、また東北大学大学院工学研究科が実施した女性教授公募では、定年制5人の枠に約50人と競争率は10倍。

多様性、公正性、包摂性を理念に掲げた「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)推進宣言」を発表した取り組みで、助教を雇用できるなど支援が手厚かったことも話題にされました。

そして注目すべきは「女性限定公募」は女性の参加促進やジェンダーギャップの解消を目的とした措置にもかかわらず、一部でマイクロアグレッションが噴出したこと。

本記事では、「女性限定公募」への不満として表われる典型的なマイクロアグレッションについて深彫りしながら、その理解と対応の重要性について書いてみようと思います。

 

「女性限定公募」の背景

 

あらためて強調しますが、大学における女性限定公募は、科学技術やSTEM分野(科学、技術、工学、数学)などの男性が優勢な領域での女性の参加やリーダーシップの機会を増やし、ジェンダーによる不均衡や偏見を是正することに眼目があります。

女性限定公募が行なわれる背景をざっとまとめてみます。

 

科学技術分野を筆頭にリーダーシップポジションにおいて男性が女性よりも圧倒的に多いというジェンダーギャップが存在します。

女性限定公募は、性差別による健全な場の構築を妨げるこのギャップを埋め、女性というだけでつけないポジションを拓いていきます。

 

  • 形成的な影響

女性のモデルやメンターの存在は、ほかの女性へのモチベーション向上につながります。

女性限定のプログラムは、女性同士が支え合い、お互いを励まし合うシスターフッド的な場となることを目指しています。

 

  • 多様性の追求

異なるバックグラウンドや経験を持つひとびとが集まることで、新しい視点や考えが見つかり、より充実した環境となります。

女性限定公募は、男性が優位につくポジションや領域においてその多様性を追求するひとつであり、より包括的な学術環境を目指すものです。

 

以上の理由から、女性限定応募は差別ではなく、不平等を是正し、女性の参加や平等な機会を促進するための一時的な手段として考えられます。重要なのは、女性のみを優遇するのではなく、他の個人やグループの権利や機会も公平に配慮することです。

 

女性限定公募に対するマイクロアグレッション

先ほどマイクロアグレッションが噴出したと書きましたが、そもそもマイクロアグレッションとは何を指すかということからおさらいしましょう。

マイクロアグレッションとは、一見些細な言動や態度であるものの、当事者に対して差別や侮辱を含むメッセージとなるものです

これは、社会構造やステレオタイプが無意識に無批判に基盤となっている結果です。

ここから差別だと主張する声がなぜマイクロアグレッションに相当するかを挙げていきましょう。

 

 

マイクロアグレッションの例

一部の人々は、「女性限定公募」が男性差別や逆差別だと主張し、その不満を表明します。

冒頭で挙げた20%にも満たない異様な状況を知らず、女性が科学技術分野やリーダーシップポジションにおいて男性よりも少ない存在であるという歴史的事実や現実の不平等に目を向けないひとびとにありがちな言動です。

これらの批判は、以下のようなマイクロアグレッションといえます。

 

  • 「女性だから特別扱いされている」という感情の表明

これは、女性の参加促進やジェンダーギャップの解消を否定し、女性が特別な待遇を受けることを不公平と捉える考え方です。

 

  • 男性差別だ」という特権的立場からの主張

これまでの特権的立場であることを忘れ、女性限定公募を男性差別と見なし、男性の参加機会を奪われるという批判があります。

しかし、ここまで見てきたように、女性の社会的不平等や過去の歴史的背景を無視した主張でしかありません。

 

理解と対応の必要性

 

女性限定公募への不満がマイクロアグレッションとして表われてくることに対しては、そうした人物たちと粘り強く対話すること、ジェンダーの問題や不平等についての教育や啓発活動を通して、偏見の自覚を促すことが必要です。

 

おわりに


「女性限定公募」への不満がマイクロアグレッションとして表われることは珍しくありません。

なかにはミソジニーも混じっていることがあるため、対話の場がこじれてしまい、うまくコミュニケーションがとれないことの方が多いですが、それでも理解不足や偏見に対して、粘り強く向き合う必要があります。

女性の参加促進やジェンダーギャップの解消に向けた取り組みを継続し、社会全体で包括性と公平性を追求することが重要です。

 

大事なのは、意思決定の場に女性を増やすことです。

たとえば30人中10人が女性だと、女性の意見も反映され「メンズクラブ」で決めるというのは通用しなくなります。 

女性研究者が研究者としてキャリアアップしていく際、妊娠・出産などといったライフイベントが、研究活動に大きな影響を与えてしまう状況になっています。

キャリアの評価制度自体が男性主体の考え方になっていること、この評価のシステムを変えていくことが次なる課題となっていくでしょう。

まだまだ第一歩というわけです。

 

最後までお読みいただいてありがとうございました。

 

任期付き研究者〈任ポス〉問題の深刻さ

 

任ポス問題

こんにちは。

理化学研究所は2023年3月末に600人の研究者を雇い止めすると2022年3月下旬に報じられてから、Twitterなどでは「#任ポス問題」として問題の大きさが広がっています。

この解雇で研究室やチームがなくなって職を失う研究者は約300人と見られています。

国立大学では任期なしポストが約2万人減り、科研費や民間との共同研究など外部から評価されている研究者が雇い止めになっています。こんな状態がまかり通っている限り、日本の衰退は止まりません。

 

日本の研究機関において、任期付き研究者が直面している問題は多岐にわたりますので、少し問題をまとめます。

これを受けて理研正規雇用問題解決ネットワーク(理研ネット)は2022年3月7日、理研の松本紘理事長(当時)に対しこの約600人の研究系職員の雇い止めの撤回無期転換ルールの適用を意図的に避ける目的での雇用上限の撤廃を要請しました。

松本理事長は3月23日に要請に応じることができないと正式に回答しています。

このことから3月25日午前、理研ネットは末松信介文部科学大臣後藤茂之厚生労働大臣に宛て、雇い止めの撤回と労働契約法の趣旨に則って雇用上限を撤廃するよう理研に要請。同日午後、理研ネットが記者会見を行なったのでした。

その後、4月1日に理研理事長に就任した五神真氏(前東京大学総長)は再度雇い止めの撤回を申し立てています。

この問題の本質を若手研究者の雇用不安の問題だと見做されているなか、一部では労働契約法の問題や政府の科学技術政策に問題までも浮上しています。

加えて、わたし自身は科学研究の環境や資金配分の問題もあるように思います。

もうちょっと言うと、研究費の配分や研究テーマの選択にまつわる政府および研究機関の役割に関する点です。

研究者の安定した研究と成果には、きちんとした研究環境と資金が必要なのは言うまでもないですよね。

政府や研究機関は、将来性のある研究テーマに適切な予算を割り当てることは、研究者の雇用不安を少し軽くすると思います。

研究者の雇用形態に関する制度改革ももちろん重要になります。

正規雇用や短期雇用が主であれば、研究者は雇用不安に晒されたままだからです。

さらに言うと、研究者のキャリアパスやキャリア支援についても見直されなければならない件です。

これが重要なのは、若手研究者が安心して研究に専念できる環境を整備することで後世の研究者の育成やアカデミアへの定着につながっていくからです。

 

それでは、任期付き研究者の問題点とその解決策について詳しくまとめます。

 

1. 終身雇用からの転換

過去の日本の研究機関では、終身雇用が一般的で研究者は安定した雇用状況に恵まれていました。

ですが、現在は任期付きの契約や非正規雇用が主流となり、研究者は再雇用の不確実性やキャリアパスの不透明さに直面しています。このことは、研究環境に大きな転換をもたらした大きな点です。

2. 研究環境の不安定性

任期付き研究者は契約期間が限定されているため、安定した研究環境を築くことがとてもむずかしくなっています。

短期間の契約では、研究計画の実施や長期的な研究テーマの追求ができない場合があります。研究者は自身のキャリアを確立しながら優れた成果を出すためには、持続的な研究環境が必須です。

3. 賃金や福利厚生の格差

任期付き研究者は一般的に正規の研究者と比べて賃金や福利厚生面で不利なときがあります。

研究費の確保や研究結果の発表にも制約があるケースさえあり、研究へのモチベーションや成果に影を落とします。フェアな報酬体系と福利厚生の整備が見直されるべきです。

4. キャリアパスの制約

任期付き研究者は再雇用が不確かだったり競争が激しかったりするので、キャリアパスの制約を受けることがあります。

一定期間を経て契約が切れると、ほかの機関への移籍もしくはキャリア転向を余儀なくされるのも珍しくありません。

そうなると、特定の研究分野での専門性の深化や長期的な研究計画の実現が難航します。

キャリアパスの確立と研究者のスキルや専門性を活かせる機会の拡充が必要です。

5. ワーク・ライフ・バランスの課題

任期付き研究者は研究業績の追求や再雇用にかんする競争のなかで長時間労働やプレッシャーに晒されます。

こうしたことはワーク・ライフ・バランスを崩すきっかけになります。適切な労働時間や休暇制度の導入、メンタルヘルスケアのサポートなど、研究者の健康と働きやすさを重視した環境が必要です。

 

これらの問題を考えると、以下のような対応がとられるべきと思います。

 

研究者の安定した雇用を確保するためには短期契約ではなく、長期の雇用契約です。これがなければ研究者は持続的な研究活動やキャリアの構築に集中できないからです。

 

  • 公正な報酬体系の整備

任期付き研究者と正規の研究者との間の報酬格差をなくすため、公正な報酬体系を設ける必要があり、また、福利厚生の向上や研究費の充実にも目配りが必要です。

 

  • キャリア支援プログラムの充実

任期付き研究者がキャリアパスを自由に選択できるよう、キャリア支援プログラムの充実が大事でしょう。異なる研究分野への挑戦や産学連携など、多様なキャリア選択肢を示せれば状況は変わってくるはずです。

 

  • ワーク・ライフ・バランスの重視

研究者の健康と働きやすさに重きを置き、適切な労働時間と休暇制度を導入しないと問題は解決しません。このなかにはもちろんメンタルヘルスケアのサポートも入り、研究者の心身の健康をサポートする基盤が必要となります。

 

まとめ

 かつては終身雇用が主流であり、研究者は安定したキャリアパスと雇用条件を享受していましたが、近年では短期契約や非正規雇用が増加し、研究者たちは再雇用の不確実性やキャリアの不透明さに直面していることが浮き彫りになりました。

 

ここからわかる #任ポス問題 というものをまとめると

 

  • ポスドクの制度とワークライフバランスに無理が生じている
  • 雇用制度など制度自体に問題がある
  • 研究職の問題が広く伝わらず当事者以外のテコ入れがない 

 

研究者の最も大事な役割は、新たな知識や技術の創造や社会への貢献です。

そのため、研究者が自身の研究の質と量を向上させるために努力するには、優れた研究成果を上げ国内外で評価を得ることで、研究者のキャリアや雇用の安定に直結する事柄です。

研究費の獲得や学術論文の発表、学会での発表などを通じて自身の研究成果を示すことです。

それに研究者は自身の専門分野における最新の知識のフォローを絶えずおこたらずに、プロジェクト管理やチームワークなどのスキルも重要になってきます。

 

研究者の大量雇い止めは、決して自己責任ではありません。有能なリーダークラスの研究者さんも雇止めの対象となっていたことから、能力の問題ではないことは明らかです。研究者の雇用不安を単に個人の責任とするべきではないと思います。

研究者自身と社会的な支援が相互に補完しながら、より良い研究環境を実現することが必要です。

 

ChatGPTで論文執筆できるか検証してみた!

 



盛り上がっていますね、ChatGPT!
なにがここまで話題を呼んでいるかのかというと……

ChatGPTは、自然言語処理モデルである(最新では)GPT-4を用いた対話型チャットボット。

ウェブに浮遊するさまざまな情報や文章をAIが学習し、指示(プロンプト)を入力すると

対話しているかのように、文章生成や質問への回答をし、細やかな要望にも対応します。

2015年にイーロン・マスク他により起ち上げられたOpenAIが開発し2022年11月にリリース。

GPT-3の後継モデルであるGPT-4を用い、AIツールとしてすぐに席巻しているのはご存じの通りです。

ChatGPTの特徴として、3つを挙げてみます。


1. インターフェース:対話型-チャット風

ChatGPTでは、要求を入力するとテキストで即座に回答が示される、チャット型です。

なめらかな対話風のやりとりが特徴と言えるでしょう。

 

2. 応用域:活用の場が多様

ChatGPTが話題を呼んだ大きな要因として、入り組んだ表現や言い回し、質問内容を理解し、

一定程度きちんと対応できるところではないでしょうか。

途方もない情報量を学習させたAIゆえ、小説や物語プロットを簡単に作り出すことができ、

コーディング、アイディアの整理、英文校正など多様に応用できます。

ディスカッションのようにしてブレインストーミングとしても利用可能です。

 

3. フィードバックに基づく進化

ChatGPTのデメリットは、偽の情報や誤回答を返してくる点です。

ただそれも、日夜ユーザーからのフィードバックにより修正学習しながら、

より精度を上げています。

 

さてこのようにまとめてみると、リサーチや参考文献収集、文献レビューやアイディアの捻出、要約作成、そして校正もできるならば、論文執筆に活かせないか?と思えてきます。

そこに横たわる諸問題はありますが、論文執筆時において多くの細やかなサポートツールとしてどのように活用できるかに今回は焦点を当てたいと思います。

 

ChatGPTを論文執筆に活用する

上記にまとめた通り、ChatGPTは収集した情報からテーマやキーワードを掘り下げるのに役立ちます。

スピーチ原稿やジャーナル編集者へ宛てたメールの下書き、カバーレターのフォーマット作成など、論文に関わるさまざまなタスクにも役立てられますが、ここでは、論文サマリーの作成をサポートする場合の活用方法をご紹介します。

文字制限があり論文全体の入力はできませんので、まずは論文のパートごとに重要な要素に関係するキーワードを抜き出しておきます。

そうしたキーワードをChatGPTに入力したうえで、要約を作成すると指示します。

ここでかなり精度の高いサマリーができあがるとしても、ちゃんとポイントを押さえているか、

重複文や適切な言い回しになっているか、チェックしないといけません。

もし不正確で要約として役に立たないものであれば、わりと鉄板で使える「続けて」というプロンプトや、より詳しい指示を出していきましょう

ChatGPTは日本語の表現には特に不完全なところも多いことを念頭に、

あくまで構成の叩き台として役立てるくらいだと思っておいてください。


サマリー以外でも同じです。

章ごとに構成や重要ポイントを抽出し、詳しく書かせながらアイディアを拾っていきます。

文章量の足りない際は、的を射ていると思う箇所をより詳しくと追加指示を出していきます。

 

大事なのは、ここからコピーして一部を使っていく場合の仕上げです。

たとえば「だ・である」調に統一するなど、重複する言い回しや文調がまちまちである場合も多々あるため、このマニュアルでのチェックは欠かせません。

また同時に事実確認も行なっていきます。

とくに参考文献を手がける際は、ほんとうに実在する論文なのかを入念にチェックし、また実際に中身に目を通す必要があります

 

論文でAIを使うメリットとデメリット

メリットに挙げられるのは高速で効率的な文章生成が可能という、膨大な情報量を瞬時に処理することによる効率化です。

つまりChatGPTは自動的に文章を生成するため、人間が書くより高速で効率よく文章生成ができます。

わたしが試してみたときには、400字詰め原稿用紙にして25枚分=5,000文字の下書きを30分で作ることができました。

これをベースに自分で調査した内容と照らし合わせて加筆修正すれば、一本の論文を作ることは可能でしょう。

ただし、ChatGPTを使うために確認事項もそれだけ多いことをお忘れなく。

このファクトチェックの作業がデメリットの筆頭となります。

英文校正には十分使えると思う人のいるようですが、筆者の文意を丸っきり無視した添削をした結果、ファクトが捻じ曲がるという現象や、パラグラフ単位での意味や流れなどは当然見てくれないので注意が必要です。

英文校正は、まだ当分英文校正会社に依頼することになりそうです。

 

また、ChatGPTが提示する内容はあくまで一般的・広範的な内容にとどまります。

統計などの数字も任せられません。

くわえて提出先によってはAIによる論文作成の規制・制約・禁止も公示されている場合があるので注意が必要です。

最近ではChatGPT生成を検知するツールも出てきています。

テクノロジー系ニュースサイトNeowinの記事によるとスタンフォード大学がAIを検知する機能も備わったDirect-GPTを作ったという情報もありました。

 

まとめ

以上のように見ていくと、文章生成AIであるChatGPTは論文の生成に十分役立ちます。

ただし、繰り返しになりますが、ChatGPTはあくまでも補助的なツールでしかないことを念頭に置き、研究倫理に紐付いた正しい距離感で使いたいところですね。

 

次回はChatGPTの英文校正の使いかたをご紹介したいと思います。
お楽しみに!

最後までお読みいただきありがとうございました。

ChatGPTを利用した英文校正の有効性

現代のデジタル時代において、正確かつ流暢な英文表現はますます重要になっています。

しかし、自身の文章を校正することは容易な作業ではありません。

そこで、話題を総ざらいしているChatGPTのような大規模な言語モデルが有用かどうか、考えました。

今回、本記事ではChatGPTが英文校正においてどのように役立つかについて深彫りしてみましょう。

 

1. ChatGPTの機能と利点


ChatGPTは高度な自然言語処理技術を使用しており、文法や文脈に基づいて文章を解析し、修正の提案を行なうことが可能です。

そのため、現在さまざまな利用法が取り沙汰されていますが、その利点をまとめてみると以下の通りです。

  • 幅広い知識: ChatGPTは多様なトピックについての幅広い知識を有しています。そのことで、さまざまな文書や文章の校正に活用することができると思われます。
  • アップデートされつづける表現:ChatGPTが注目されることの1つにトレーニングデータとして最新の文章を使用していることがあります。そのため、最新の言語表現や用例、回答が可能となっているわけです。
  • 迅速な処理:ChatGPTは高速で効率的に処理していきます。大量の文章を短時間で校正できることも魅力です。

2. 注意点と制約

ただし、ChatGPTを使用する際には当然ながら注意する点があり、念頭に置いた方がいいと思われることもいくつかあります。

  • 文脈の理解: ChatGPTは前の文脈を考慮しながら文章を生成していくのですが、校正においてけっこうな頻度で文脈に基づかない誤った修正を提案することがあります。校正を行なう際は、提案された修正案が元の文章と整合するものであるかを確認することが必須となります。
  • 専門用語と専門分野の文章:ChatGPTは一般的な知識にはとても精通しているのですが、特定の専門タームや専門分野の文章の校正にはかなり限られた知識しか対応できません。専門用語や専門分野の文章を校正する場合は、その分野に精通したプロフェッショナルな人物による校正を依頼することがおすすめです。
  • ヒューマンエディターの確認:ChatGPTは自動的に文章を修正するための提案を行ないますが、校正の最終判断はヒューマンエディターに委ねるべきです。ChatGPTの提案を参考にしながら、最終的な修正を行なうことは省けない行程だと思います。

3. やってみました

では、早速例としてChat GPTで英文校正を行なう手順について見ていきましょう。

まず、AIに出す指示(prompt)をチャットボックスに入力し、" ”内に校正したい文章を入力します。効果的なプロンプトについては後述のリンクなどを参考にしてみてください。

文字数の制約があるため、あまりに長い文章は途中で切りながら入力します。

ここで日本語から直接入力してももちろん英語で回答があるのですが、DeepLやGoogle翻訳といった機械翻訳で先に英訳しておくとこなれた英語で出てきます。

出典は千葉大学の紹介記事から行き着いたAwesome ChatGPT Promptsをわたしも使ってみました。

 

I want you to act as an English translator, spelling corrector and improver. I will speak to you in any language and you will detect the language, translate it and answer in the corrected and improved version of my text, in English. I want you to replace my simplified A0-level words and sentences with more beautiful and elegant, upper level English words and sentences. Keep the meaning same, but make them more scientific and academic. I want you to only reply the correction, the improvements and nothing else, do not write explanations. My sentences are “文章入力

 

ここからChat GPTによって提案が出力されてくるのでそれを確認、必要があれば換えていきます。

おかしくないな、と自分が納得できるまでこの繰り返しを行ないます。その文章をまたChatGPTにかけて、ミスや改善の余地を探し出すこともやってみるとよさそうです。

そして絶対忘れてはいけないのが、ヒューマンエディターの力です。

ChatGPTは英文校正において貴重ではありますが、すべて任せると大惨事を招く可能性があると思っています。

ヒューマンエディターの役割は重要であり、最終的な校正の判断は人の手を頼るべきです。

 

おわりに


使ってみたところ、ChatGPTは英文校正において有用なツールであると言えます。

ヒューマンエディターの労力をもってしては不可能な時間で一気に校正してもらえる魅力はやはり大きいです。

幅広い知識から提案を行ない、迅速な処理が可能だからです。

とはいえ、文脈の理解や専門分野が限定的な情報しか持たないことを念頭に置いて、ヒューマンエディターの確認を組み合わせることは必須かな、と思います。

くわえて注意したいのは、ChatGPTの校正により生成された文章は、当然ながら、どこかに既に存在した文章を学習した内容を下敷きに作られます。剽窃・盗用にあたる内容が生成された文章に含まれていてもおかしくありませんので、必ず確認しましょう。

個人的には、まだしばらくは英文校正は専門の会社に出すかな、という感想です。

 

ChatGPTの活用により、より正確でリーダブルな英文表現を叶えられることは、今後ますます見込まれます。

このブログでもチェックしていきますので、また変化があったら追跡記事を出します。

ここまで読んでくださってありがとうございました!

論文掲載料(APC)の高騰化問題について

こんにちは。

多くの研究者が、研究成果を発表し、知識を共有するために論文を書き、ジャーナルへの掲載が必要不可欠となりますが、その際に高額な費用が必要となることで問題となっている論文掲載料

そんななか、米国科学振興協会(AAAS)が出版する『Science』系列5誌が今年2023年からOA出版の新方針を打ち出したこと、ご存じでしょうか。

まだまだこの新方針は学術ジャーナルにおいてもうまくいくか未知数なところがありますが、今回はこの動きを追う前に論文掲載料(APC)の背景や問題点についてまとめていきたいと思います。

 

高騰する原因

 

ジャーナルの掲載料は、論文の種類、著者の数、必要な編集・査読サポートの量などの要因によって異なる可能性があることに留意することが重要です。

考えられる原因はいくつもありますが、まずは一般的に共通する根本原因を以下に挙げてみます。

 

  • 出版社の利益追求

まず容易に思いつくのが、出版社が論文を掲載することで収益を得ていることです。

近年、出版社の多くが利益を最大化するために掲載料を高騰させており、研究者や図書館は高額な掲載料を支払うことを余儀なくされています。

 

  • 円安

日本円が米ドルやユーロに対して減価すると、ただでさえ高額な掲載料を課す海外ジャーナルに対し、より多くの日本円を支払う必要が生じます。加えて、円安の影響で起こっている物価高も間接的に研究費や研究者自身の生活を圧迫していることは言うまでもありません。

 

  • 論文の需要の増加

研究者の数が世界で増加傾向にあり、論文の需要が増えています。

そのかたわら、掲載するためのジャーナルの数は限られているため、競争が激化して掲載料が高騰しているという見方もあります。

 

これは代表例に過ぎず、さらにいくつもの要因が複雑に絡まり合って、けっきょく論文を出す側が憂き目を見ている構図があるのは不健康極まりないですね……。

 

高騰化の問題

 

まず論文掲載料の高騰がもたらす問題として、アクセスの制限が挙げられるでしょう。

多くの出版社が高額な論文掲載料を設定しているため、知識の共有や研究の進展を妨げることになり、学術界全体の進展にも支障が生じていると言っていいはずです。

 

また、論文掲載料の高騰が、研究者のキャリア形成に悪影響を与えることも指摘すべき点です。

研究機関は、論文の発表数や掲載先などを採用の基準として見ているため、研究職のキャリアアップのためには論文掲載が不可欠と言えます。しかし、高額な論文掲載料を払うことができない研究者は、掲載数が少なくなり、キャリアアップの機会を失う恐れがあるのです。

 

そして、論文掲載料の高騰により研究費の削減につながることにも留意しなければなりません。

研究費には予算があるため、高額な論文掲載料を払えない場合、ほかの研究費を削減することになります。

その結果、研究成果の質が低下するという事態が起きてきます。

学術研究の進展において、高額な論文掲載料を払うことができない研究者の研究成果は誰もアクセスできず、その研究成果がどのような成果を生んだかを検証することができなくなるわけです。

 

さらに、先に書いたように出版社の利益優先の問題もあります。

論文掲載料が高い一方、他者の研究にアクセスすることのハードルも上がり、研究者自身や大学・所属機関などが負う負担も増大しているという状況にあります。

このような状況は出版社の利益優先によって研究者や大学などが経済的に苦しむ負のループになりかねません。

また、研究環境による研究者間の不平等や偏り、つまり経済格差を生み出すこともあります。

高額な掲載料を支払うことができる大学や研究者は、高品質の論文を発表することができる一方、費用を捻出できない研究者や研究機関は論文を発表できない可能性が出てくるからです。

 

以上のように、論文掲載料の高騰が引き起こす問題は多岐にわたるため、この問題を解決するためには、多面的な取り組みが必要となっています。

 

掲載料高騰に対するソリューション

 

論文掲載料の高騰が解消されれば、知識の共有や研究の進展が促進されるということはたしかですね。

その論文掲載料を抑えるひとつとしては、出版社との交渉という手段もあります。

出版社や研究者、大学が協力し、論文掲載料の抑制に取り組み、研究者や大学が一丸となって出版社との交渉に臨むことで、論文掲載料を抑える可能性が開けます。

また、オープンアクセス(OA)が成長してきており、著者や研究機関は研究成果を無料で公開するよう求められるようになりました。オープンアクセスジャーナルやプラットフォームは、誰でも自由にアクセスできるようになっているため、原則的に研究者や大学が論文掲載料を支払わずにアクセスできます。

また、学会が自主的にオープンアクセスジャーナルを立ち上げることで、研究成果を広く無料公開できます。

 

おわりに

 

論文掲載料の高騰は、研究者や大学だけでなく、社会全体に影響を与える問題です。

ジャーナルの品質や評判は掲載料だけで判断すべきではなく、著者は投稿するジャーナルを選ぶ際に複数の要素を慎重に評価する必要があります。

 

そのため、先に述べたように出版社や学会、政府、研究者、大学などが協力して、論文掲載料の高騰に対する取り組みを進めることはやはり重要になってくるように思います。

 

冒頭に述べた『Science』系列5誌APCの新方針の動向も今後ともフォローしていきたいところです。

 

お読みいただいてありがとうございました。

科研費採択の天国地獄

こんにちは。

科学研究の資金調達の一つである「科研費」。

これの採択には悲喜こもごものストーリーが付きものです。

まずは公募の告知から始まり、審査委員の選定書類審査を経て最終的な審査が行なわれ、採択された研究課題が発表されます。

(もちろん、研究費の種類や研究機関によって異なる場合がありますので、募集要項を確認することは必要!

そんなわけで(?)、今回は科研費について掘り下げてみたいと思います。

 

1. そもそも「科研費」とは?

科研費」とは、狭義には文部科学省の所管にある日本学術振興会が行なう「科学研究費助成事業」から交付される研究助成金を指します。日本学術振興会の交付する科研費のなかでも、「基盤研究」、「挑戦的研究」、「若手研究」、「研究活動スタート支援」などと区分が細分化されていて、さまざまな段階や規模で、あらゆる分野に対応する形の研究助成が実施されています。

このほかにも科学研究の助成は、国や地方自治体、民間企業などでも行なっていて、その助成金補助金、寄付金なども含めて「科研費」と表現されるケースもあります。いずれにせよ、研究者が研究活動を行なうための費用を支援する制度を指すわけです。研究者が実験材料の調達や被験者募集研究施設の利用研究発表のための出張費用論文執筆の費用(学会誌の投稿料・掲載料)などに利用することが可能です。

科研費は、いわば研究の生命線

主に、大学や研究機関に所属する研究者が応募することができますが、産業界や自治体などでも研究費の提供を行なっている場合があり、応募資格が異なります。

科研費は、研究者が自由に研究テーマを設定し、自主的に研究を進めることができることが特徴的です。

また、競争原理に基づく審査が行われ、採択された研究者には一定額の資金が支給されるため、優れた研究が促進されることが期待されます。

 

2. 採択方法

その採択方法には、いくつか手続きがあります。

まずは以下に箇条書きをしてその全貌を知るために眺めてみましょう。

 

科研費採択には、一般的には以下のような手順があります。

  • 公募の告知

科研費の公募が行なわれます。

各研究分野において、研究課題、研究期間、研究費等の募集要項が定められ、研究者が応募することができます。

  • 審査委員の選定

公募に応募した研究課題について、専門分野の審査委員が選定されます。

審査委員は、研究分野における専門的な知識を有し、公正な判断が求められます

  • 書類審査

研究課題の応募書類が、審査委員によって評価されます。

書類審査の結果、一定数の研究課題が最終選考に進みます。

  • 最終審査

最終審査では、研究者が応募した研究課題について、審査委員による質疑応答が執り行なわれます。

そして最終的に、採択される研究課題が決定されます。

  • 採択結果の発表

採択された研究課題について、採択結果が発表されます。

採択された研究者は、研究費を受け取り、研究を進めることができます。

 

……という展開は理想的なありかた。

しかし、現実は厳しいもので、令和4(2022)年度の科学研究費助成事業(基礎研究(S))への新規応募649件のうち、採択されたのは80件。この採択率12.3%という数字からもわかるように、残念ながら採択される研究より不採択になる研究が多いのも事実です。

まずは、採択されなかったケース、つらい結果となった体験談を心の準備として見てみましょう。

 

採択されなかった研究者

上で見てきたように、科研費の採択基準は非常に厳しいもので、科研費の採択基準が厳しい現代において、研究者たちは大変な苦労を強いられています。

そのため、優れた研究者でも採択されないことがあります。

そんな苦いエピソードをご紹介します。

 

知り合いの研究者が、自分の研究テーマに関する研究費を申請しましたが、採択されなかったことでショックを受け、研究への情熱を失ってしまったことがありました。

自分の研究に自信を持っていた彼女は、何が悪かったのかわからず、何度も改善を試みましたが、結局採択されることはありませんでした。

落胆した彼女は、何が悪かったのかを考え続け自分の研究が不十分であると感じ、何度も自己批判を繰り返してしまいました。

彼女は、他の研究者との共同研究に参加することになりましたが、自分の本来の研究テーマからも、やがて研究からも遠ざかってしまいました。

採択されなかったときの立ち直りかた

とはいえ、ご安心あれ。

彼女はその後、同僚の研究者と話しているとき自分のプロジェクトを高く評価しているという言葉を聞いて、自分の研究が本当に不十分であったわけではなく、ただうまくアピールできなかっただけだったと気がついたのです。

彼女は、もう一度プロジェクトを見直し、アピールポイントを強調し、再び提出することにしました。

数か月後、見事採択!

彼女は不採択の経験を通じて、自分自身の研究価値を見失わず、自信を持ち続けることが重要であることを痛感したと言います。

彼女は科学者としてのキャリアをいまも続け、精力的に研究を続けながら多くの成果を上げています。

 

おわりに

科研費に採択されなかった研究者のみなさんもご覧になっているでしょう。

まずは気を落とすことなく、今後のために前向きに取り組んでいってください。

科研費の競争率は非常に高く、多くの研究者がプロジェクトを立て、熱意を持って応募しています。

採択されなかったとしても、それは単に多くの優秀な応募者がいたからなのです。

上に挙げた例のように、応募が落ちた原因をしっかりと分析し、克服するための改善点を見つけることは重要です。

落ち込んでも自分の提出した研究計画や提案書をしっかりと見直し、改善点を見つけてこそ次の一手が打てるというものです。

応募書類が優れていると自負している場合であっても、研究計画をより深く考え、提案書をより洗練されたものにすることを検討してみるのはいかがでしょうか。

そして、次回の応募に向けて、説得力のあるプレゼンテーションを行なう準備をしておきましょう。

また研究プロジェクトを深めるためのアドバイスを求めることもおすすめです。

最後に、科研費が得られなかったとしても、研究は楽しいことであることを忘れずに、今後も熱意を持って研究に取り組みましょう。

そして、その熱意が反映され、結果的には資金面でも成功する可能性を秘めていることをいつでも念頭に置いてくださいね!

 

ここまで読んでくださってありがとうございました!

ジャーナル投稿に挑戦!2〈投稿篇〉

こんにちは。

前回に引き続き、ジャーナル投稿についてお送りします。

後半の今回は【投稿篇】です。

 

 

1:論文の投稿先

これが大事になってくるのは、見当違いなジャーナルに出すとリジェクトされるだけでなく、編集部が査読に回す前に不採択を決定する“エディターキック(Editor Kick)”の決定がなされるのにも、まるまるひと月以上かかって、労力ばかりか時間も費やしてしまうからです。

アクセプトを待っている時間ほどつらいものはないですからね……。

ジャーナルを選ぶ際には自分の書いた論文がどのジャーナルの目的と範囲(Aims and Scope)にハマるかという視点でも、精査していきます。

 

押さえるべき点はいくつかあっても、通底するのはジャーナルの特徴を知ること。

それさえしておけば、だいじょうぶです!

 

2:ジャーナルの探し方

  • 普段よく読む学術雑誌

自分の論文で引用している学術論文が掲載されているジャーナルは何度も見かけているので、難なく思い浮かぶと思います。

まずは自分が引用する論文が多く掲載されているその学術雑誌を候補にしましょう。

読者・査読者・編集者に研究内容や重要性をわかってもらえる可能性が最も高いです。

 

  • 新しい学術雑誌

次に、新しい学術雑誌にも目を配ってみましょう。

オープンアクセス(OA)形式が多いと思います。

 

  • 特集号

ジャーナルで企画される特別号がわかっていれば、そこに掲載されると同じ研究分野の研究者が読む可能性が高いので候補に入れてください。

 

  • ウェブサイトをチェック

ジャーナルのウェブサイトを見て、どのような論文が求められているかを確認しましょう。

サイト内のジャーナルの掲げる目的やターゲットとする読者層、出版頻度、査読方法、掲載している論文の形式(ニュース、リサーチペーパー、レターなど)の情報も得られます。

 

ジャーナルのインパクトファクター(JIF)はウェブサイトに載っているケースが多いです。

 

ジャーナルが求める論文と執筆している研究論文の内容が合致している雑誌の中から、採択率や結果の返答までにかかる時間(turnaround time)ジャーナルの投稿先を決めましょう。

ジャーナルによってはカバーレターの必要などがあり、執筆要項はちがいますので、必ず投稿先となるジャーナルの規定を確認してくださいね。

 

ちなみに細かいところですが、なかには図表に色付けする際に印刷費用を払う必要がある学術雑誌もあります。

そんな情報も事前に見ておくとgoodです。

 

3:AIで爆速! 論文サービスお役立ち情報

 

最後に、論文投稿に役立ちそうなサービスを載せておきたいと思います。

 

Elsevier Journal Finder

http://journalfinder.elsevier.com/

大手出版社Elsevierのジャーナル情報検索サービス。

論文タイトルとアブストラクトを入力すると,Elsevier社が出版するジャーナルから最大10誌程度、投稿先を提案してくれます。

ありがたいことにジャーナルごとのインパクトファクターだけでなくアクセプト率や査読期間もわかるので、比較するときにはとても重宝します。

 

Semantic Scholar

https://www.semanticscholar.org/

無料のAI搭載科学文献調査ツール。

マイクロソフト共同創設者のPaul Allenによって2014年に設立されたアレン人工知能研究所(Allen Institute for AI)が提供するサービス。

アブストラクトや図表の自動抽出や、PubMedIEEE、Science、Springer Nature や bioRxivなど世界中500以上もの出版社、学会、大学出版局のデータベースからキーワードを自動解析しトピックの分類や論文の引用情報の意味解析をしてくれます。

論文内容を自動で一文に要約するTLDR機能など、素速く論文を見つけられる使い勝手のよいサービスです。

 

Elicit

https://elicit.org/

Elicitは優秀な研究補助のように、単語から関連論文を探すだけではなく、リサーチクエスチョンやそこまでまとまっていないちょっとした疑問を入力すると、一瞬で調べたい論文情報の要約がリストとして出してくれます。

GPT-3という深層学習を使った新しい論文検索エンジンで数十億の論文データベースをAIで深層検索、研究に関わる一連の問いと答えを論文コンテンツから自動生成しているそうで、なかなか画期的なサービスだと感じています!

 

おわりに

以上、今回はジャーナル投稿にまつわる準備から選び方までご紹介しました。

 

自分の研究を面白いと思ってくれる人は必ずいるので、投稿しないのはもったいない!

査読者の方がうまく解釈して「こう解釈したらどうだろうか」という提案コメントをしてくれることもありますし、自分ではうまく解釈できない結果でも出版された後にうまく解釈してくれる人が出てくることもあります。

 

勇気をもってぜひ投稿生活をサヴァイヴしてください!

それでは、また!

 

ジャーナル投稿に挑戦!1〈準備篇〉

こんにちは。

いま、論文投稿に四苦八苦の時期でしょうか。

どのような雑誌で評価され、読まれ、引用されていくか。

ジャーナル投稿は研究キャリアの肝であり、論文執筆までも山あり谷ありですが、それだけでは終わりません。

投稿した原稿の厳しい査読、リジェクト、リバイズ、はれてのアクセプト……

そんなジャーナル投稿のめくるめく一大ドラマが待ち構えています!

 

今回はそんな論文投稿に向けて押さえておくべきコツを2回に分けて記したいと思います。

前編は【準備篇】です!

 

1. 論文投稿の事前準備

何をもってしても大事になるのは事前準備(preparation)です。

具体的なポイントを細かく書いてみます。

 

  • とにかく情報を集める

論文投稿までの行程を頭に入れておきましょう。

論文執筆・投稿・改訂・受理・掲載の流れなどそんなに難しいことではないですが、なんせ投稿先ごとに細かく規定がちがうので、その整理整頓が大変なんですよね。

ジャーナル選択の際に再確認するにしても、研究室や同僚と話すなかで頭に入れておくとのちのちスムーズです。

 

  • 基本方針を指導教官や受入教員と綿密に相談

これを抜きにして何も始まりませんよね。

指導教員や共著者と真剣に議論することで頭が整理されますし、論理的な抜け穴やバイアスなどを炙り出すことができます。

わたしの経験から言うと、文章から 図表(figure) にいたるまでのすべての要素を指導教授と共著者とともに何度もディスカッションして、論文を仕上げるのが一般的に思います。

この期間3~4か月はかかるイメージです。

 

そして共著者がいる場合の注意ポイントもあります。

単著であれば気にしなくていいのでとばしてください。

 

共著の場合、事前に相談しておきたい点は以下です。

 

  1.   同意を得る……共著者になってもらえるか打診しましょう。投稿したい学術ジャーナルについても話し合いましょう。
  2.   他の共著者について……共著に入れる研究者についての話し合いと確認をします。
  3.   責任著者……責任著者(corresponding author)を誰にするかの相談をします。
  4.   著者の表記順……筆頭著者、第二著者など表記の順番を確認します。

 

のちのち共著者を打診することもありますが、なるべく早いうちに決定しておきましょう。   

 

 

2:ArticleかLetterか

ジャーナルの原稿形式についても考慮すべきです。

研究論文とひとくちに言っても、

  • 学術論文(Regular Article
  • レター(Letter

どちらにするかきちんと考えておくと、意外に諸々すんなり決まる場合があります。

 

通常の論文はみなさんご存知だと思いますので説明を省きますが、レターを選んだときに気をつけてほしいことは次の二点です。

 

  • ページ制限

レターにはページ制限があります。つまり、必要事項を簡潔に書くことが求められます。

  • 査読期間

査読期間が短い場合が多いので、こちらもチェックしてください。

 

3:執筆に最適な時期

原稿(manuscript)の執筆をどの段階でするのがいいか、というと、個人的には、学会発表をし終わった後やる気があるときに取りかかるのがベストだと思います。

データを集め抄録を書いて学会で発表してみるとちょうど頭の整理もできますし、何より見てくれる人からのダイレクトな反応を受け取ることができるので、自信になります。

 

執筆に関しては、形式に応じて書きやすいセクションから書いていくのも大事です。

タイトル・アブストラクト・引用文献などをはじめ、

書く順番は自由でフレキシブルに書いた方がいいのですが、

図表を先に作ってからの執筆がやりやすいと思っています。

図表の整理ができていて頭にしっかり入っていると、

研究論文の全体像を掴めるので、単純に書きやすいんですよね。

 

 

おわりに

事前相談が終わり、形式が決まり、執筆に目処がついたらいよいよジャーナル投稿への一歩を踏み出します。

そんなわけで、次回は実際のジャーナル投稿の際に役立つ情報をまとめたいと思います!

乞うご期待!