ヒロコのサイエンスつれづれ日記

フリーのサイエンスライターです。論文執筆・研究・キャリアについて発信していきます。

もしもブラックラボに入ってしまったら

少し前の話ですが、日本のアカデミアの闇をテーマにした「今ここにある危機とぼくの好感度について」というドラマが放映されました。研究室のように閉じた小さな世界は、とかくブラックになりやすいものです。

以前「行っていいラボ、いけないラボ」にも書きましたがラボ選びは慎重にしなければなりません。とは言え、研究室に入ってみたら、こんなはずじゃなかった…たという事例は本当に多いです。

もし入ったラボで理不尽な扱いを受けたら、どのように対処すればいいのでしょう?

ブラックラボ学生イメージ

こんなはずじゃなかったのに…とモヤモヤしていませんか?

ブラックな職場に共通する4つの特徴(とその対策)

ブラックな職場はアカデミアに限らず存在します。例えば介護や保育の現場もそのようになりやすいと言われています。

余談になりますが、私の娘が通っていた幼稚園も若い先生が数年で辞めてしまい、非常勤のスタッフをやりくりして運営していました。きめ細やかな保育に定評があるものの、裏を返せば細かいルールがたくさんあり、保護者もそれを守らなければなりませんでした。園長やベテラン先生の流儀が絶対で、保育後の反省会議の時間も長く、若い先生たちが辞めていくのも納得でした。

その幼稚園を見ていて、ブラックな職場には共通点があるかも?と気がつきました。

 

1.少人数の閉じたコミュニティー

その幼稚園は3学年3クラスからなり、スタッフも10名という小規模なところでした。研究室も、小さなラボならそのくらいの規模でしょうか。

一概に少人数だからダメとは言えないのですが、人数が多ければ悪い噂が必ず外に漏れますし、ボスの存在感も相対的に弱まります(その一方でメンバー間の派閥争いという別の問題が浮上することもありますが、本題から逸れるのでここでは触れません)。少人数の場合、不都合な真実が容易に隠蔽されてしまいやすく、第三者に訴えることが難しくなりがちです。

大手企業では人事評価のシステムが行き届き、上司が部下を評価するだけでなく、部下も上司を評価し、上司の人事に少なからず影響を与えます。また、ハラスメント防止のための研修も定期的に行われます。

大学でも、例えば東京大学のように大きな所帯であればハラスメント相談所のような機関がありますが、残念ながら全ての大学でそのようなシステムが機能しているわけではありません。

もし理不尽な対応を受けているのであれば、何かしらその証拠を記録し(あまりお勧めしたくはありませんが、音声データを録音するとか、または日記のように記すのでもいいでしょう)、より上位のポジションにいる人(例えば学科長)に相談するのも一つの手です。

 

2.ボスが威圧的

娘が通っていた幼稚園は、実は以前は人気があり、若手から中堅、ベテランに至るまでスタッフの年齢にも幅がありました。様子がおかしくなったのは、園長が交代してからです。とても気が短い人で、気に入らないことがあると、相手がスタッフであれ、保護者であれ、すぐ声を荒げて怒鳴ってしまうのです。

そうなると、スタッフは園長の言いなりになり、思考停止におちいってしまいます。実際、コロナ禍にもかかわらず、園長はマスクもしないで話をするので保護者からクレームがでているそうです。スタッフの誰かが注意すれば、そのようなことは防げるはずですが、ワンマン先生に物申すなど、許されないのかもしれません。

diversity is power(多様性こそ力なり)という言葉がありますが、一つのチームに様々な特徴を持つ人が共存し、それぞれが強みを発揮してこそ、困難な課題も乗り越えられるというものです。研究という未知の事象を解明する仕事ならなおさらでしょう。

なぜ威圧的な態度が許されてしまうかと言うと、やはり、その上に監督する人がいないからだと思います。幼稚園の園長もラボのPIも、いわば一国一城の主。いかようにも振る舞うことができてしまうのです。威圧的な性格を変えることは難しいかもしれませんが、組織に透明性があればある程度、抑止できます。

以前の記事にて、アメリカの博士課程では厳しい中間審査があり、まずはproposalをしっかり書いてpreliminary examを突破しなければ候補生になれないことをご紹介しましたが、このような制度も、所属するラボだけでなく審査委員会のメンバー全体で学生を見守り、透明性を高めるための取り組みと言えます。

また、大学によってはjoint programといって、異なる大学間の2つの研究室で指導をうけながら博士号をとることも可能です。

博士課程の途中でラボを変えるのは難しいかもしれませんが、実験をなかなかさせてもらえない、データがあるのに論文を書かせてくれない、などの問題が発生しているのであれば、透明性の高いシステムを導入しているラボに移ることも検討してもいいかもしれません。その際、推薦状は当然、指導教官以外に書いてもらうことになるでしょうから、助けてくれそうな研究者をみつけるところから始めましょう。

ポスドクであれば、「このデータを論文として書かせてくれないのであれば、ライバルの○○ラボに移って実験の続きをするが、それでもよいのか」など脅す提案するのも有効かもしれません。

 

3.必要以上に細かいルールがたくさんある

実験系のラボでは、機器の取り扱いに関するルールや実験手法のプロトコールが決められているかと思います。そのようなルールやプロトコールは、原則、守るべきだと思います。ところが、中には首をかしげたくなるようなルールを設けているラボもあります。

私がかつて所属していたラボでは、週に1回掃除をすることになっていたのですが、ボスの指示で、必ず「窓を開けて」掃除機をかけることになっていました。そうしないとホコリが室内にとどまってしまうから、というのが理由で、窓を開けないと厳しく怒られました。

当時は「そこまで差があるのかな?」と思いつつ、「まあ、ボスの気が済むならそうしておこう」と言うとおりにしていました。数年後、とあるTV番組で、どのような掃除方法がホコリを取り除く効果が高いかを検証をしていたのですが、空気の流れがあるとホコリが舞いあがってしまうので、そもそもファンを回して吸引する掃除機ではなくモップの方が効果的と知りました。窓を開けて換気をよくするなど論外だったのです。

研究室のルールのなかには、このように科学的な根拠が乏しいものも存在します。よそのラボに移ってみると、それがよく分かります。もし、自分がより良いルールや手法を見出したなら、積極的に提案してみましょう。新しいやり方を受け入れてくれるラボほど、柔軟性が高く、より効率的な実験が可能になり、成果も上がるものです。

 

4.時間的拘束が長い

夜9時までは実験室にいなければならない、というのが暗黙の了解になっているラボや、ボスより先に変えると白い目で見られるという研究室、日本では珍しくないかと思います。

中には徹夜で連続して実験している先輩がいて、そのような人を高く評価する風土があります。自分もそこまでやらなきゃいけないのかな~とプレッシャーに感じることがあるかもしれません。

どうしてもそのサンプルでデータをとらなければならない、という状況であれば実験が長引くのは仕方のないことですが、<長時間労働=生産性が高い>という図式は、古い考え方です。

アメリカで博士号をとり、お子さんを育てながらポスドクをし、神経科学の分野で高い成果を上げていらっしゃるOISTの田中和正さんがpodcastで語っていらっしゃったのですが、保育園の送迎の都合で9時から5時までしか実験できない、という状況の中でも実験のプランを周到に練ることにより(例えば朝早くに起きて実験をし、いったん家に帰って子供に朝ご飯を食べさせてから保育園に送り、また実験室に戻ったとか!)、むしろ無駄な実験をすることなく効率よく仕事を進めることができたそうです。

また、夜遅くまで実験することは、欧米では危険を伴います。治安のよい日本と異なり、帰り道に襲われる可能性が高くなるからです。特に、アメリカの研究室は明るいうちに仕事を済ませる朝型のラボが多いように思います。

もし、無駄に長時間労働を強制されるようであれば、しっかり立てた計画の元、実験を遂行していること、そしてその方が成果も上がることをボスに示しましょう。

 

ステージ別ブラックラボ脱出法

1.修士課程

修士課程に在籍している人の場合、博士課程に進学するか就職するかによって打つべき手は変わってきます。

もし、博士課程に進学したいのであれば、修士の途中でラボを移るのではなく、D進のタイミングでラボを変えるのが、正直、楽です。国内だけでなく、海外の大学院も検討する絶好のチャンスかと思います。

就職を考えている場合、特に研究と就職活動の両立が難しい場合、就職に強い研究室に入り直すのも一つの手です。一時的に時間とお金がかかりますが、希望の会社に就職できればいつか回収できますし、現状に流されるままの学生よりも、環境を変えるために行動を起こす積極的な学生の方が企業に好まれる可能性すらあります。研究と就職活動の両立について就職エージェントに相談してみるのもいいでしょう。

博士課程にいこうか、就職しようか迷っている方がいたら、個人的には就職をお勧めします。企業によっては、たとえば豊田中央研究所のように研究開発に従事しながら博士号をとらせてくれるところもありますし、就職してから、やっぱり研究がしたいことに気がついて博士課程に入る人もいます。大阪大学の名誉教授でモーター蛋白質の一分子力測定の第一人者でいらっしゃる柳田敏雄先生は、修士を出て企業に就職した後、博士課程に入り直されたそうです。

 

2.博士課程

博士課程に在籍している人の場合、別のラボに移ることを真剣に考えた方がいいかもしれません。行動に移すとなると大変ですが、少なからずそういう方もいらっしゃいます。共同研究者や学会で知り合った同業者に相談してみるのもいいかと思います。

また、博士課程を中退して就職することも可能です。就職が決まったので学位の取得を待たずに中退する、と言った方が正確かもしれません。博士課程を中退すると就職に不利になると思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、意外とそうでもありません。エージェントを利用して情報収集してみましょう。

こういう時に必ず問題になるのが指導教官からの引き留めです。実は私もD2の終わりごろに「もう研究者としてやっていく自信がないので、新聞社の採用試験を受けます!」と指導教官に伝えたことがあるのですが、「あなたみたいにマイペースな人が締め切りに追われる生活に耐えられるはずがないでしょ」と一蹴されました(笑)。

こんなのはまだカワイイ方で、なかには「あのラボに移ったら、ますます学位が遠のくぞ」とか「就職に推薦状が必要でも書いてやらないぞ」のように脅してくる先生もいるかもしれません。

博士課程を中退して困るのは誰でしょう?ほかでもない指導教官です。プロジェクトを別の学生に引き継ぐとなれば論文が出るのが遅くなってしまいますし、なにより悪い噂が立ち、ラボの人気が下がってしまいます。だからこそ、必死になって脅して引き留めるのです。脅しに負けず、就職エージェントを味方につけて、自分を守りましょう。

 

3.ポスドク

ポスドクの場合、大学院生とは事情が変わってきます。指導教官には大学院生を指導し学位をとらせる義務がありますが、ポスドクはPIに雇われてる労働者です。能力のあるポスドクは採用され、そうでない者はクビを切られます。研究成果を上げる、という点でのみ利害が一致している関係です。

そのラボにいるせいで結果が出ないのであれば、さっさと見切りをつけて他のラボに移るしかありません。推薦状が必要であれば学位をとったラボの指導教官や共同研究者に依頼しましょう。

ラボの居心地は悪くても論文が出そうな場合、次の行き先を探しつつ、論文が出るまでそこにいるのが賢明です。

もちろん、心身に支障をきたすほど疲れてしまったのであれば話は別。退職も視野に入れましょう。一般的に仕事の空白期間は無いほうがいいのですが、このご時世、体調不良で休職期間が発生してもおかしくありません。実家に身を寄せながらオンラインでMBAをとるとか、データサイエンスのスキルを身につけるとか、学びの期間にしてみてはいかがでしょう。

履歴書には職歴だけでなく履修歴を書くこともできますから、空白が生じません。少し元気が出てきたら、エージェントに登録して就職活動をしてみましょう。分野や業種や待遇にこだわらなければ意外な求人が見つかるものです。特に外資系やベンチャー企業は狙い目です。業界未経験や博士号持ちを歓迎する求人もあります。

博士号保持者の就職についてはこちらのサイトも参考になります。