ヒロコのサイエンスつれづれ日記

フリーのサイエンスライターです。論文執筆・研究・キャリアについて発信していきます。

ポストコロナを見据えたポスドク先の探し方(後編):面接のコツ

ワクチン接種が開始され、パンデミックにより一時中断していたビザの発給が再開し、ポストコロナに向けた動きが始まっています。アカデミアも例外ではありません。

前編では、海外でポスドクをするメリットや受け入れラボの候補先の見つけ方についてご紹介しましたが、この度の後編では、ラボのジョブ・インタビュー(面接)対策や候補先の絞り込み方について、ご紹介します。

 

 

ジョブインタビュー

英語でのジョブ・インタビューを成功させるには?

ラボのPIとコンタクトをとる

ポスドクで行きたいラボの候補先が見つかったら、まずはラボのPIとコンタクトをとりましょう。

本当は、直接会いに行ってラボの様子をみたり、ラボのメンバーからボスの人柄やラボの運営方法について聞いたりするのがいいのですが、国際会議のついでならともかく、ラボ見学のためだけに渡航するのは費用がかさみますし、今は渡航するのが厳しい状況が続いています。

現状でしたら、まずはメールを書いてオンラインミーティングのアポをとるところからスタートするのが現実的なやりかたでしょう。

私だったらメールに

  • そのラボから出ている論文をよく読んで、「このラボのプロジェクトのこんなところに惹かれました!」とラブコール
  • 「自分だったら、さらにこんなことをやってみたい!」という研究のアイディア
  • 「当方、今までこんなことをやってきた者です」という自己紹介
  • 「ところで、ポスドクを受けれることは可能でしょうか?」
  • 業績リストを含む英文履歴書(CV)やLinkedInのアカウントの添付

を書きます。

さらに2回目以降のメールで

  • ラボの概要(例:取り組んでいるプロジェクト、ラボの人数、既にいるポスドクが何年くらい滞在しているか)を尋ねる
  • オンラインでのラボ・ミーティング参加希望を伝える(ラボの様子を知るため)

といいでしょう。

ただし、魅力的なラボほど、世界中からこのようなメールが送られてきますから、無視されてしまう可能性もあります。知り合いや、そのまた知り合いのツテを頼ることができれば、話が進みやすいでしょう。

 

ジョブ・インタビュー

メールでよい反応が得られたら、数回のやりとりを経て、いよいよ面接(ジョブ・インタビュー)となります。

直接対面する場合は、

  1. ラボメンバーの前でプレゼンテーションをして、今までやってきたこと、これからやりたいこと、こんな貢献ができるというアピールをする
  2. ボスから、採用・不採用の結果を聞く。給料や待遇についても交渉する
  3. ラボメンバー(全員または一部)とも面談する

の流れが一般的なようですが、オンラインミーティングでも、ほぼ同じ流れで、概ね1~2時間くらいかかるようです。

 

<面接対策1:予行演習>

英語でのオンライン会議、ドキドキしますよね。大学によっては、英会話学校と提携して英語でジョブ・インタビューを受ける練習ができるそうですが、そのようなプログラムが学内にない場合は、自腹でオンライン英会話を利用するのもいいですし、より実践に即した予行演習をしたければ、英語ネイティブの研究者とオンライン相談できるサービスを活用してみるといいと思います。

すでに学会の口頭発表やポスター発表の経験があると思いますので、その時使ったPPTスライドを編集して、今までやってきたことをまとめましょう。

 

<面接対策2:視線や顔の位置>

リアルな対面のプレゼンテーションでありがちなのが、PIの方ばかり向いて話してしまう、というパターンです。ラボメンバーの一人一人とアイコンタクトをとるように、右端、左端、中央と、面接への参加者全員に視線を移すよう心がけましょう。

ただ、オンラインのプレゼンテーションの場合はカメラに向かって話すことになりますね。ずっとカメラ目線ですと相手も疲れますので、時々手元の原稿に視線を移すのもいいと思います。ネット上で公開されているウェビナーを参考にして、登壇者のプレゼンテーションを真似してみましょう。

視線だけでなく、

  • 画面に映った自分の顔の上に適度なスペースがあるか(顔が大きく映り込んでしまうと、圧迫感を与えてしまいます)
  • カメラの位置が、顔よりやや上にきているか(下から見上げるように映るよりも、やや上から移った方が自然な印象を与えます)
  • カメラからの適度な距離があるか(顔だけでなく手も映るくらいの距離を保てば、適度に身振り手振りが入り、ライブ感が出ます)

などもチェックしましょう。

ちなみに私が個人でいいなと思っているお手本は、英国王立協会でアウトリーチを担当しているBrian Cox教授のZOOMプレゼンテーションです。顔の大きさや位置がちょうどいいですし、カメラ目線を保ちつつ、適度に手元の原稿にも視線を移しています。身振り手振りが映るくらいにカメラとの距離があるのも効果的です。後ろの背景が本棚というのもいいですね。(ただ一点、この方は偉い方なので問題ないのですが、ずっと肘をついていると、やや尊大な印象を受けるので、そこは真似しない方が無難かもしれません!)

 

<面接対策3:ジョークを盛り込む>

日本からやって来る若手研究者を、ラボの人たちはどのように見ているとおもいますか?おおむね「日本人のポスドク?どうせ真面目で手先の器用さが取り柄なんでしょ?」と感じているはずです。

その先入観を最初にドカンと打ち砕けば、プレゼンは8割成功したも同然です。ぜひプレゼンテーションの冒頭にジョークを仕込んで、聴衆の心をつかみましょう。

ユーモアのセンスがあるのは頭の良さの証でもあります。実際、TEDに出てくる一流の研究者たちは、15分程度のプレゼンテーションの始めの1分以内に、ドラゴンボールの話をしたり、聴衆に向かって面白い質問を投げかけたりして、笑いをとっています。

万が一、スベってしまっても、気にしないことです。TEDをみているとジョークを仕込んだのに笑ってもらえなかったというプレゼンもいくつか出てきます。「あれ?誰も笑ってないですね。今のジョークだったんですけど。まあ、いいや。先に進みます。Well, nobody is laughing? It's a joke!OK, Never mind. Let’s keep going.」などと言って、プレゼンテーションを先に進めましょう。

 

生活面で気を付けるべきポイント

ラボからオファーをもらえたら、最終的な行き先を決めなくてはなりません。

いざ渡航するとなると、生活面でも気をつけるべきことがいろいろあります。特に、ご家族を帯同される方は注意が必要です。

 

<1.ビザ>

ポスドクで海外に行く場合、ビザの扱いは学生ビザではなく労働ビザとなります。

国によって、ビザの期限や更新の仕組みも異なり、例えばアメリカの場合はJビザ(原則3年半まで延長可)を取得してからHビザに切り替え、さらに長く滞在する場合は永住権(グリーンカード)を取得することになります。

初回のビザの期限を超過してラボに滞在する場合、ビザの切り替えはどうすればいいのか、ビザのスポンサーになってもらえるのか、受け入れ先に聞いておくことが必要です。

また、ビザの仕組みは、国や政情によっても変化するので、

のHPで最新情報をチェックしましょう。

 

<2.家賃>

家賃にも気をつけましょう。家族構成によって住む家も変わってきます。

同じ給料でもNY、ボストン、サンフランシスコのように家賃が高い都市と、そうでないところでは手元に残るお金が全然違います。一見給料がよさそうに見えて実は家賃の高い都市だった、ということもあります。生活費や教育費が残るのか、それとも貯金を切り崩すのか、考えておく必要があります。

 

<3.配偶者の仕事>

残念ながら、配偶者の方が仕事を中断しなくてはならないケースが多いです。カップルで大学院生または研究者という方、また日本での仕事をリモートワークで続けられる方はこの限りではありません。

 

<4.日本人コミュニティ>

日本人が多く住んでいる所には、日本食レストランや日本食材店がありますし、さまざまな情報を日本語で入手することできます。ご家族がいれば、お子さんの遊び相手に日本人のお友達がいるのも心強いでしょう。

一方で、企業から派遣される駐在員とポスドクとでは、経済事情も身分の安定度も違うので、生活スタイルを比較してしまうと落ち込んでしまうかもしれません。適度な距離を保ち、自分は自分、と思うことが大事です。本人は仕事に夢中になっているので気にならないかもしれませんが、ご家族がそうならないように環境を工夫しましょう。日本人コミュニティだけに依存せず、現地コミュニティでの絆を深めるのも一つの手です。

 

<5.子どもの教育>

大きく分けて、(1)現地の学校に行くか、(2)日本人学校に行くか、(3)インターナショナルスクールに通うか、という選択肢があります。

(3)はお金がかかります。また、保育園が無料か有料かも、国によって違います。アメリカでは日本のような公立の保育園は無いらしく、月あたり10~20万円ほど、ニューヨークにいたっては30万円もかかるそうです。

配偶者が仕事を辞め、子どもの教育にお金がかかり、しかも家賃が高いとなると、家族を連れての留学は経済的に厳しいと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、海外で生活する研究者の家族をサポートするプログラムもあります。

 

<6.治安・人種差別>

昨今メディアで報道されている通りですが、パンデミックを契機に欧米でのアジア人差別が目立ちます。

比較的差別が少ない国としては、寛容な移民政策を打ち出しているカナダが挙げられます。カナダでは移民のことをimmigrantではなくnew comersと呼ぶそうです。

また、アジアの国、例えばシンガポールでしたら、アジア人差別はありません。シンガポールは治安もよく、シンガポール国立大学南洋理工大学など世界ランキングの上位に入っている大学もあり、日本人でPIをされている方もいらっしゃいます。

 

長々と書きましたが、10人いれば10通りのエピソードがあります。

様々な国でポスドクとして活躍されている方の生の声を、ぜひ参考にしてみてください。

 

【オーストラリア】

日本で学位取得後、オーストラリアでポスドクをされている方のブログ

オーストラリアは高被引用論文著者HCRが増加し、研究力を高めている国の一つです。

 

【イギリス】

上原財団のフェローシップケンブリッジ大学にてポスドクをされている方(UJAサイト

 

【カナダ】

バンクーバーポスドクをされている方のブログ

 

【スペイン】

バルセロナポスドクをされている方のブログ

 

【ドイツ】

ハイデルベルクポスドクをされている方のブログ

 

アメリカ】

ボストンでポスドクをされている方たちのポッドキャスト。お一人はカナダ、フランスでの留学経験もあり、興味深いお話が聞けます。ラボのボスとコンタクトをとる秘訣やポスドク先を探した時のエピソード(1:43:00あたり)も紹介されています。

 

また、MITの利根川研でポスドクをされていた方のポッドキャストもおすすめです。流行りの研究に飲まれてしまうのではなく、むしろそれを利用しながら独自性を打ち出し、数年先のキャリアプランを見据えて戦略的にラボを選んだお話は必聴です。