ヒロコのサイエンスつれづれ日記

フリーのサイエンスライターです。論文執筆・研究・キャリアについて発信していきます。

理系ドクターの就活事情【1】あなたはどのタイプ?

博士課程に在籍中の皆さんにとって、最も気になることは、研究成果を出して学位が取れるかどうか、さらには、その後の就職ではないでしょうか。無事に学位をとり、任期付きの研究職につけたとしても、最終的にアカデミックな定職に就けるのはごく一部。言い換えれば、多くの人が、学位を取得した後、どこかの段階でアカデミア以外のポストに就くことになるのです。

一昔前までは、アカデミックポジションを得られなかったドクターは「落ちこぼれ」「挫折した人」というイメージがありました。でも実際には研究職以外の職種で活躍しているPhDが少なくありません。どうすれば、自分に合ったキャリアを見出せるのか。このブログでは3回に分けてそのヒントを探っていきます。第1回目のテーマは自己分析です。

 

 

自己分析のイメージ

まずは自分の姿を知ろう!

このブログを読んでくださっている皆さんは、大学院生でしょうか?それともポスドクの方でしょうか?就職に不安を抱えながらも夢を抱いて研究者への第一歩を踏み出したところでしょうか?あるいは、もうアカデミアでの生活を続けるのは無理。なんで親の反対を押し切ってまで研究の道に進んでしまったのだろう。研究職以外の就職先をさがしたいけど、修士ならともかく、博士の求人はほとんどないし、自分は資格も持っていない。どうすればいいのだろう・・・と途方に暮れている方もいらっしゃるかもしれません。実は20年ほど前、まさに私自身がそのような大学院生でしたし、ドクターを中退して就職しようと本気で考えたこともありました。

 

でも、いざ就職活動をしようとすると、何から始めていいのかわからない方が多いのではないでしょうか。研究室から毎年コンスタントに企業に就職している人がいる場合や企業とのパイプを持っているラボの場合は、先輩に相談したり指導教官に推薦してもらったりできますし、研究と就活の両立も問題なさそうですね。でも、ガチガチの基礎研究をしているラボの場合、「ポスドクになるのが当たり前」「研究するために大学院に来たのだから、就活で本業をおろそかにするなどあり得ない」という雰囲気があり、だれにも相談できず、また就活のやり方もわからず、一人で悩み、時間ばかりが過ぎてしまうというケースが少なくありません。

 

就活を始める時に、まずやらなければならないのが自己分析です。学部の新卒採用に応募する学生たちは、自己分析をして自分の長所や弱みを理解し、面接に臨みます。新卒向けには自己分析の様々な心理テストやツールが開発され、多くの書籍が出版されていますから一度手に取ってみるといいでしょう。インターネットでも入手可能なツールがたくさんありますし、その書き方や活用方法についても紹介されています。

 

AIによる自己分析ツール

おススメ自己分析診断ツールの紹介 

自己分析シートの書き方について

 

ただ、高い専門性や経験を備えたドクターに求められるスキルは新卒とは異なりますし、一般的な自己分析がピンとこない方もいるのではないでしょうか?ドクターなら研究者にふさわしい自己分析も必要です。では、どのように分析すればよいのでしょう?

 

少し話が変わりますが、私自身、修士、博士、そしてポスドクと様々なラボで仕事をし、いろいろなPIや同僚に出会いました。そして気がついたのは、

研究者にも様々なタイプがいる

ということです。皆さんの周りにいる人を思い浮かべてみてください。例えば、あなたの同僚は、実験につかう機械が壊れた時にすぐにメーカーの担当者に電話して修理を依頼するタイプですか?それとも自分であれこれ試して故障の原因を探ったり、別の機械で代用したり、はたまた新しい方法をあみ出すタイプですか?あるいは、あなたのラボのPIは、部屋にこもっていつも論文やグラントを書いているタイプですか?それとも、若い人に交じって自分でも実験せずにはいられないタイプですか?

 

そして、あなた自身はどうでしょう?

研究しているとき、どんな時に一番ワクワクしますか?そして、どんなタスクに苦痛を感じますか?

 

研究者の仕事は、非常に多くのタスクから成り立っています。最新の論文に目を通す、論文に書かれていることを鵜呑みにせず批判的に読む、研究テーマを設定する、試行錯誤しながら実験データを積み重ねる、データを分析し考察する、論文を書くといった研究に直結するタスクはもちろん、学会にいってライバルの最新動向を探る、共同研究者をみつける、あるいは人脈を作って次のポストにつなげるといった処世術のようなことまで、実に多岐にわたるのです。

 

以下に研究に欠かせないスキルをリストアップしました。各項目について、そのタスクがあなたにとって楽しいと思えるか、または得意であるかどうかについて、答えてください。大いに当てはまる(5点)、当てはまる(4点)、どちらでもない(3点)、あてはまらない(2点)、まったく当てはまらない(1点)として点数もつけてみましょう。

 

1.情報収集力

実験用のマニュアルを読む。論文を読む。必要な情報をネットや本で検索する。専門的な内容を英語で理解する。

2.課題設定能力

新しいことに気がつき、アイディアが湧く。未解決の問題を実証可能な命題に落とし込む。研究テーマを設定する。

3.課題解決能力

試行錯誤しながら、うまくいかない原因を究明する。既存の手法にこだわらず、新しいやり方をあみ出す。

4.思考・分析力

実験結果を考察する。論文を批判的に読む。データの解釈について議論する。

5.文章作成力

英語で論文や研究費の申請書を書く。

6.コミュニケーション能力

研究の進捗状況をボスや同僚にきちんと伝え、アドバイスを受け取る。対面はもちろん、それ以外の手段(例:メール)でも、プロジェクトの問題点や解決策を共有する。感情的にならずに適切な言葉を選んで後進を指導する。

7.プレゼンテーション能力

学会や学位論文審査の際に口頭発表する。読んだ論文の内容をセミナーで発表する。中高生や門外漢の人にもわかりやすく自分の研究内容を知らせる。

8.ネットワーク力

学会に参加した時に、積極的に交流する。自分からも情報を提供する一方で、相手からも情報をうまく聞き出す。

9.マネジメント力

課題に優先順位をつける。短期的・長期的プランを立て、それを実行するために必要な資金や人材を集める。組織や学会の運営に関わる。

10.楽観力

すぐに成果がでなくても落ち込まず、困難な課題にじっくりと取り組むことができる。きっとなんとかなると信じて歩き続けることができる。

 

さて、いかがだったでしょうか?

あまり点数が高くなかった方、ご安心ください。大事なのは、絶対的な点数の高さではなく、

どの項目において点数が高いかを知る

ことです。このセルフチェックリストをあなたの身の周りにいる研究者についてもやってみるとわかりやすいと思うのですが、満点を取れる人は、まずいません。PIになっている人でさえ、項目ごとの点数に凸凹があることに気がつくでしょう。皆、得意なスキルで不得意なスキルをカバーして、激しい競争を生き抜いているのです。

 

若気の至りでドクターに来てしまったと後悔している皆さんにも、やっぱり研究者には向かないと挫折感でいっぱいのあなたにも、きっと、これだけは楽しかったという瞬間や、これだけは得意というカテゴリーがあるはずです。そして、そのキラリと光る経験にこそ、進むべき道のヒントが隠されています。次の記事では具体的なお薦めの職種をご紹介したいと思います。