ヒロコのサイエンスつれづれ日記

フリーのサイエンスライターです。論文執筆・研究・キャリアについて発信していきます。

論文はクリティカル・シンキングで挑め!

読者の皆様、大変ご無沙汰しております。

久しぶりのブログ、今日は

「論文の読み書きに役立つクリティカル・シンキング」について考えてみます。

 

 

クリティカル・シンキングイメージ

自分の推論に批判の目を向ける、それがクリティカル・シンキング

 

論文の読み書きに重要なクリティカル・シンキング

突然ですが、へんな質問からはじめてみます。
みなさん論文を書くとき何をチェックしていますか?
規程書式? たしかに基本の押さえどころです。
論文形式? これぬきには始まらないですね。
研究成果や主張の述べかた? そうそう論文の肝ですから。

 

ほかにも
データを正しく用いているか
引用はきちんと確認できているか……
など、挙げればキリがないのになぜそんなことを?
と思われるでしょうが、以下のようなポイントは意識されているでしょうか?

 

  • 読んでいる論文に前提が抜け落ちていないか
  • そこで述べられている前提は正しいか
  • 各要素に相関関係・因果関係がしっかりとあるか

 

これらは
クリティカル・シンキングもしくは批判的思考
と呼ばれる思考方法のチェックポイントです。

 

今回は論文の読み書きに重要なポイントとして
クリティカル・シンキングを見ていきたいと思います。
実践してこなかったというかたも
すでにやっているよというかたも
冷やかし半分でおつきあいくださるとうれしいです!

 

クリティカル・シンキングの意味と先行研究

さて、そもそもクリティカル・シンキングとはなにか?


英語の「critical」の語源はギリシャ語のkritikosで
「判断する(judge)」につながっています。
日本語の訳語の一つ「批評的」にあてられる意味は

 

物事の是非などを吟味し疑ってみること

 

です(『大辞泉』第二版、小学館)。

 

クリティカル・シンキングの定義はさまざまありますが
先行研究として名前が挙がるのは、

 

 

クリティカル・シンキングとはなにか―3つのキー

クリティカル・シンキングの測定尺度を開発したエドワード・グレイザーは
クリティカル・シンキングに必要な3つとしてこのように書いています[2] 。

 

  1. 経験から生まれる問題やテーマを思慮深く検討しようとする姿勢(An attitude of being disposed to consider in a thoughtful way the problems and subjects that come within the range of one's experiences.)
  2. 論理的な探求と推論の方法にかんする知識(Knowledge of the methods of logical inquiry and reasoning.)
  3. 1・2を適用するスキル(Some skill in applying those methods.)

 

簡単に要約すると、

 

  • 吟味・熟考……主張・情報を安易に受け入れるのではなく、その前提となるもの自体を問い直す
  • 判断・決定……吟味・熟考における問い直しをもとに、妥当と考えうる判断・決定を下す
  • 自己省察……以上の判断・決定をあらためて問い直し至った過程を自分で捉え返す

 

というキーにまとまります。

 

なんとなく正しそうだと根拠なく受け容れるのではなく、
自分の規準(criteria)に照らし合わせながら判断・評価する、というわけです。
グレイザーは「吟味」が最も重要だと説明しているのですが、
こうして批判的態度を繰り返す過程を見るとよくわかりますね。

 

このように見てくると、


クリティカル・シンキングとは
他人の主張を鵜呑みにすることなく、自分で吟味し評価する


ことだとひとまずいえると思います。

 

論文におけるクリティカル・シンキングチェック項目

では、これらをあらためて研究論文の読み書きに当てはめてみるとどうなるでしょう。
先に述べた「吟味・熟考」「判断・決定」「自己省察」を経れば、

 

たとえば

  • 先行研究の前提をそのまま受け入れていないか
  • 結論が論理的に正しく導かれているか
  • 自分の判断基準や研究からどのように検証・評価を加えるか

 

などのチェック項目は簡単に浮かび上がるのではないでしょうか。


論理的な探求や推論が行われているかを見極めるため
クリティカル・シンキング
科学論文を読み書きする際の重要な基礎となる理由は
もうおわかりですよね。

 

日本語の批判という語は一般的には相手を批難するようなイメージですが
クリティカル・シンキング
むしろ、自分自身の推論に批判の目を向け
論理的で偏りのない思考を導くポジティヴな方法だと言えます。

 

おわりに

この記事を通してみなさまの研究活動が
より活き活きとした意義深いものになるよう
お役に立てば幸いです。
ここまでおつきあいいただきありがとうございました!

 

 

[1]: アレク・フィッシャー著・井上尚美訳『クリティカル・シンキング入門』ナカニシヤ出版

www.nakanishiya.co.jp

 

[2]: Edward M. Glaser, "An experiment in the development of critical thinking." AMS Press, 1972. (Reprint of the 1941 edition.)