ヒロコのサイエンスつれづれ日記

フリーのサイエンスライターです。論文執筆・研究・キャリアについて発信していきます。

審査員の心理から読み解くグラント申請書の書き方

ブログをお読みいただいているみなさま、新年明けましておめでとうございます。

本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

 

いきなりですが、研究に必要なものって何でしょう?

アイディア?実験装置?時間?優秀な人材?

どれも欠かせないものですが、これらを手に入れるためには先立つもの、つまり研究費が必要です。

 

研究費と言えば文部科学省科研費が有名ですが、他に科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業や民間から出される助成金もあり、規模も年額100万円程度から億を超えるものまで様々です。どのような規模であれ、助成金をもらうためには申請書を書かなければなりません。

日本学術振興会(学振)の特別研究員DC1なら数枚程度かと思いますが、金額が大きくなればなるほど申請書の枚数も増える傾向にあり、基盤となればその倍、また年間25万ドルもらえるNIHのPI向けグラントR01に至っては(英文なので単純比較はできませんが)数十枚と言われています。

採択されるような申請書を書くためには、どうしたらよいのでしょうか?

 

本年もなるべくたくさんの興味深い研究が日の目を見ることを祈りつつ、今回のポストを書いてみました。

 

 

 

研究費の規模は様々でも、申請書を書くコツは同じ

グラントの書き方については既に多くの本が出版され、ブログSNSなどでノウハウを伝授している研究者の方もいらっしゃいます。私自身も先輩たちの申請書を参考にしながら、またボスの渾身の手直しによって、学振のDC1やAmerican Heart Associationのフェローシップ、また若手向けの科研費をいただくことができました。

私のようにそれほど大きな研究費を獲得したことがない者が偉そうなことは言えないのですが、もし、グラントの書き方のコツを1つだけ挙げるとすれば

「審査員の気持ちになってみる」

ことに尽きると思うのです。

何分で申請書を理解させるか

話は変わりますが、高校生の時に通っていた塾の先生が、「数学の証明問題は、主要な式に番号を振り、それを見ただけで証明の過程が追えるようにすること。特に入試の時には、正解を導くのと同じくらい体裁が大事!」というアドバイスをくれました。

 

言われてみれば当たり前なのですが、これができていない人が意外と多いのだとか。先生は当時、大学院生でしたが、自分の指導教官が「受験生諸君の実力は、十分基準に達していると信じている。差がつくとすれば答案の書き方だ。たった2日間で何千枚という答案を採点する側の身にもなってみて欲しい。読みにくい字や証明の過程がよくわからない答案は、正直、採点する気が失せる。」とぼやいていたのを耳にしたといいます。

 

グラントの審査員もきっと同じ気持ちだろうと想像します。学生の指導や論文執筆、はたまた講義の準備やら会議やらの忙しい合間を縫って時間をやりくりしながら、1件あたり数十ページに及ぶこともある申請書を、2週間ほどかけて10件、時には100件、目を通すのです。

 

ズバリ、1件の申請書を読むのに割くことができる時間ってどれくらいだと思いますか?

 

聞くところによると、学振の特別研究員の審査は、30代~40代くらいの中堅(?)研究者が1~2週間かけて100件ほどの申請書に目を通しているそうです。科研費も若手向けのものですと、ある方の試算によれば1件あたりに割かれる時間は5~10分と見積もられています。

 

となると、

(1)申請書のできるだけ最初の部分で、「おっ、これは面白そう!」と思ってもらう

(2)サクサクと読み進め、最後まで目を通してもらえるようにする

ことが大事です。また、

(3)スポンサーの目的と合致するようなストーリーを組み立てる

ことができれば、鬼に金棒です!

これらを実現するためには、どんな工夫が必要でしょうか?

 

1.最初でつまずかせない

審査員が、まず目を通すのは、冒頭の部分です。

ここで「つまらない研究だな」とか「分かりにくいテーマだな」と思われる、あるいはそのように誤解されてしまうと、その思いを引きずったまま審査されることになります。

 

科研費なら「研究目的(概要+本文)」、NIHのグラントなら「abstract」と「specific aim」の部分が肝心です!

 

分かりやすい文章の典型として「起承転結」が知られていますが、研究の目的を伝えるのであれば

「起」で話題を提示し

「承」で「フムフム、なるほど」と読ませ

「転」で「おっ!そんなことが分かっていないのか~」と驚かせ

「結」で「そうか、その手があったか!」と感動してもらう

となるでしょうか。

 

さらに一歩踏み込み、これらの流れをどのように段落に落とし込めばいいのか、NIHのグラント向けの解説(英語)を見つけました。4段落で構成する場合の流れは次の通りです。

 

第1段落:イントロダクション

  • 導入(hook)
  • 背景(known information)
  • 未解決課題(gap in knowledge)
  • 現時点で解決できない理由(critical need)

<導入>は高校生に語り掛けるように分かりやすく書き始めます。<背景>や<未解決課題>は「フムフム、なるほど」と思ってもらえるよう、躓かせない工夫が必要です。最後、<現時点で解決できない理由>のところで、「ほほう~、そんな理由で解決できないのか」と驚いてもらいましょう。

 

第2段落:何をしたいか、なぜしたいのか、どうやってしたいのか

  • 長期目的(long-term goal)
  • 具体的な目的(proposal objective)
  • 実現可能性(rational)
  • 仮説(hypothesis)
  • 見通し(pay-off)

この段落の目的は、「この自分こそが第1段落で提示された未解決課題を解決するのにうってつけである」ことを示すことです。長期的なビジョン<長期目的>を見据えたうえで、それを検証可能な研究テーマ<具体的な目的>に落とし込み、その<実現可能性>や検証されるべき<仮説>、さらには結果の<見通し>を示します。

 

第3段落:具体的な目的

  •  目的1、目的2…のように箇条書き

第2段落のダメ押しとして研究計画を段階的に示します。それぞれの段階で用いる手法と予想される結果、また得られた成果がもたらすインパクトを箇条書きにします。具体的に書くほど、この研究計画の実現可能性が高いことをアピールできます。

 

第4段落:まとめ

  • 新規性(innovation)
  • 予想される成果(expected outcomes)
  • 学術的・社会的意義(impact/pay-off)

最終段落では、審査員に「なるほど、この研究こそ投資する価値がある!」と納得してもらいましょう。この研究の画期的なポイント<新規性>を改めてアピールし、<予想される成果>を提示し、さらに本研究の<学術的・社会的意義>を語るのが効果的です。

 

2.図表・見出しの活用

第一印象がよければ、さらにその先に目を通してもらえますが、まだまだ油断は禁物です。最後まで目を通してもらうためには、入試数学の答案と同じで、論旨を一目で追えることが大事です。

そのためには文字で詳しく書くだけでなく

図表やチャートを活用して一目で全体像を理解してもらうこと

が必要です。

 

Cell誌のようにグラフィカル・アブストラクトの掲載が義務付けられているジャーナルがありますので、ぜひ参考にしたいところです。

 

見出しや色遣いを活用することも有効です。とはいえ、色使いについては2色以内にとどめるのが無難ですし、申請書によっては白黒のみと指定されている場合もあるので注意しましょう。網掛けや黒背景白抜き文字など、いくつかの様式を組み合わせると情報が階層化されて分かりやすくなります。

 

また、これは王道ではないかもしれませんが、もし可能なら研究内容を高校生向けに紹介するようなアウトリーチ動画を作成しておくのも一つの手です。申請者の所属や名前が隠されているわけでもありませんから、審査員が申請者の素性をネットで検索することも可能です。もし、研究内容をよりザックリ知りたいと思ったときに、アウトリーチ動画(例えば東大理学部の「研究室の扉」のようなもの)を見てもらえたらどうなるでしょう?

 

「こんな装置で実験しているのか」「ハキハキしていて人柄もよさそう」「こんな面白いプレゼンができる人なら、採択してあげたいな」と心を動かされるに違いありません。

 

3.助成金の目的にかなったストーリー展開

研究助成金の目的は何でしょう?建前上は「科学の振興」ですが、スポンサーによって、プラスアルファの狙いがあるはずです。その点を一歩踏み込んで考えてみると、より採択されやすい申請書のストーリーが見えてきます。

 

例えば科研費の目的を考えてみましょう。科研費を使って研究者の皆さんが成果を論文に発表する→科研費のおかげで基礎研究が進んだという報告がなされる→納税者が「基礎研究にお金を使うってやっぱり大事だね」と思うようになる→世論を反映して研究費の予算が増える→ますます研究成果が出る、という好循環を狙っていると考えていいでしょう。

 

ズバリ科研費の目的は、「成果が出そうな研究を支援し、納税者を納得させること」なのです。となると、そのプロジェクトの成功の見込みが高いことを示す予備試験データや、もし、研究計画が思い通りに進まなかった場合のプランBやプランCまで提示することが採択のポイントとなってきます。また、研究の背景を説明するにあたり、どの程度詳しく書くべきかについては過去の審査員のリストからある程度見当をつけるとよいでしょう(科研費の審査委員は審査年度の2年後に公開されることになっています)。

 

一方で、民間の助成金になると、少し趣が変わってきます。例えば警備会社のセコムが母体となっているセコム科学技術振興財団は、(1)セキュリティ・情報、(2)医療・福祉、(3)防災・環境という3つのカテゴリーに関する研究を支援しています。セコムはこのような研究を支援することにより得られた研究成果を、ゆくゆくは自社のサービスの差別化につなげたいと考えていることが読み取れます。であれば、研究の長期的な目的が(1)~(3)に合致するよう申請書のストーリーを組み立てることが必要になってきます。研究成果がまとまった暁には、インタビューを受けることになるでしょうから、その時に語ることをイメージすると、なお論旨が明確になるでしょう。

 

私もAmerican Heart Association(AHA)のフェローシップに応募しましたが、研究の長期目標に「循環器系の疾患の治療に貢献すること」を盛り込んだ記憶があります。

 

科研費だけで研究ができる時代は終わり、官民両方の助成金を貪欲に獲得していかなければなりません。申請書の文章を使いまわすのではなく、助成金の目的を意識して効果的に「リフォーム」することを心がけましょう。

 

仕上げには第三者の力を借りよう

自分では丁寧に論旨を組み立てているつもりでも、他の人からみると飛躍があったり、必要なポイントが抜け落ちていたり、あるいは誤解される表現になっていることがよくあります。

 

書き上げた申請書を、ぜひ信頼のおける知り合いの研究者の方に読んでもらうといいと思います。

 

アメリカでは同じ大学・研究機関に所属する仲間数人でグラント申請用のディスカッションの会を開催したり、あるいはデパートメント単位でそのような機会を設けたりしているようです。政府機関からのグラントをもらった場合、その一部を間接経費として大学に納めることになる(R01の場合、直接経費の60%ほど)ので、教員が大型のグラントをとれば、大学・研究機関も潤います。

 

日本でもURA(研究支援室)がある大学では、科研費や海外グラント申請のサポートをしています。自分の大学にはそんなサポート体制が無いという方でも、HFSPのような英語のグラントに応募する場合など、民間のグラント申請サポートサービスを利用してみてはいかがでしょうか?

 

【国内外グラント公募情報】