論文掲載料(APC)の高騰化問題について
こんにちは。
多くの研究者が、研究成果を発表し、知識を共有するために論文を書き、ジャーナルへの掲載が必要不可欠となりますが、その際に高額な費用が必要となることで問題となっている論文掲載料。
そんななか、米国科学振興協会(AAAS)が出版する『Science』系列5誌が今年2023年からOA出版の新方針を打ち出したこと、ご存じでしょうか。
まだまだこの新方針は学術ジャーナルにおいてもうまくいくか未知数なところがありますが、今回はこの動きを追う前に論文掲載料(APC)の背景や問題点についてまとめていきたいと思います。
高騰する原因
ジャーナルの掲載料は、論文の種類、著者の数、必要な編集・査読サポートの量などの要因によって異なる可能性があることに留意することが重要です。
考えられる原因はいくつもありますが、まずは一般的に共通する根本原因を以下に挙げてみます。
- 出版社の利益追求
まず容易に思いつくのが、出版社が論文を掲載することで収益を得ていることです。
近年、出版社の多くが利益を最大化するために掲載料を高騰させており、研究者や図書館は高額な掲載料を支払うことを余儀なくされています。
- 円安
日本円が米ドルやユーロに対して減価すると、ただでさえ高額な掲載料を課す海外ジャーナルに対し、より多くの日本円を支払う必要が生じます。加えて、円安の影響で起こっている物価高も間接的に研究費や研究者自身の生活を圧迫していることは言うまでもありません。
- 論文の需要の増加
研究者の数が世界で増加傾向にあり、論文の需要が増えています。
そのかたわら、掲載するためのジャーナルの数は限られているため、競争が激化して掲載料が高騰しているという見方もあります。
これは代表例に過ぎず、さらにいくつもの要因が複雑に絡まり合って、けっきょく論文を出す側が憂き目を見ている構図があるのは不健康極まりないですね……。
高騰化の問題
まず論文掲載料の高騰がもたらす問題として、アクセスの制限が挙げられるでしょう。
多くの出版社が高額な論文掲載料を設定しているため、知識の共有や研究の進展を妨げることになり、学術界全体の進展にも支障が生じていると言っていいはずです。
また、論文掲載料の高騰が、研究者のキャリア形成に悪影響を与えることも指摘すべき点です。
研究機関は、論文の発表数や掲載先などを採用の基準として見ているため、研究職のキャリアアップのためには論文掲載が不可欠と言えます。しかし、高額な論文掲載料を払うことができない研究者は、掲載数が少なくなり、キャリアアップの機会を失う恐れがあるのです。
そして、論文掲載料の高騰により研究費の削減につながることにも留意しなければなりません。
研究費には予算があるため、高額な論文掲載料を払えない場合、ほかの研究費を削減することになります。
その結果、研究成果の質が低下するという事態が起きてきます。
学術研究の進展において、高額な論文掲載料を払うことができない研究者の研究成果は誰もアクセスできず、その研究成果がどのような成果を生んだかを検証することができなくなるわけです。
さらに、先に書いたように出版社の利益優先の問題もあります。
論文掲載料が高い一方、他者の研究にアクセスすることのハードルも上がり、研究者自身や大学・所属機関などが負う負担も増大しているという状況にあります。
このような状況は出版社の利益優先によって研究者や大学などが経済的に苦しむ負のループになりかねません。
また、研究環境による研究者間の不平等や偏り、つまり経済格差を生み出すこともあります。
高額な掲載料を支払うことができる大学や研究者は、高品質の論文を発表することができる一方、費用を捻出できない研究者や研究機関は論文を発表できない可能性が出てくるからです。
以上のように、論文掲載料の高騰が引き起こす問題は多岐にわたるため、この問題を解決するためには、多面的な取り組みが必要となっています。
掲載料高騰に対するソリューション
論文掲載料の高騰が解消されれば、知識の共有や研究の進展が促進されるということはたしかですね。
その論文掲載料を抑えるひとつとしては、出版社との交渉という手段もあります。
出版社や研究者、大学が協力し、論文掲載料の抑制に取り組み、研究者や大学が一丸となって出版社との交渉に臨むことで、論文掲載料を抑える可能性が開けます。
また、オープンアクセス(OA)が成長してきており、著者や研究機関は研究成果を無料で公開するよう求められるようになりました。オープンアクセスジャーナルやプラットフォームは、誰でも自由にアクセスできるようになっているため、原則的に研究者や大学が論文掲載料を支払わずにアクセスできます。
また、学会が自主的にオープンアクセスジャーナルを立ち上げることで、研究成果を広く無料公開できます。
おわりに
論文掲載料の高騰は、研究者や大学だけでなく、社会全体に影響を与える問題です。
ジャーナルの品質や評判は掲載料だけで判断すべきではなく、著者は投稿するジャーナルを選ぶ際に複数の要素を慎重に評価する必要があります。
そのため、先に述べたように出版社や学会、政府、研究者、大学などが協力して、論文掲載料の高騰に対する取り組みを進めることはやはり重要になってくるように思います。
冒頭に述べた『Science』系列5誌APCの新方針の動向も今後ともフォローしていきたいところです。
お読みいただいてありがとうございました。