ヒロコのサイエンスつれづれ日記

フリーのサイエンスライターです。論文執筆・研究・キャリアについて発信していきます。

論文を「はじめから」英語で書くコツとは?

前回の記事では、やっぱり英語の論文は最初から英語で書いた方が実は楽、ということを検証しました。

とはいえ、このブログを読んでくださっている多くの方が、日本語を母国語として生活し、英語よりは日本語で考える方が得意と感じていらっしゃることと思います。

今回の記事では、作業のコツ&便利なツールをはじめ、「英語で考え英語で書く」いわゆる英語脳を鍛える方法もご紹介します。

 

 

英語論文執筆

ツールを使いこなせば、きっとサクサク書けますよ♪

その1:アウトラインは日本語で書く

論文を書くときは、まずアウトラインを作りますよね。アウトライン、つまり全体の流れを考える作業は、母国語の日本語でやってしまいましょう。筋書きが固まったところで、各フレーズを英語に訳していき、そこから先の作文を英語で行えばよいのです。

どんな仕事も、初めのステップが重いと先に進まないもの。もちろん、アウトラインも英語で考えられるならそれに越したことはありませんが、ファーストステップを日本語→英訳のように小分けにするのも一つの手です。

 

その2:まずは短い英文で書き始める

大筋が固まったら、英語で書いていきますが、

できるだけ短い英文で

書きましょう。

短い文で書くメリットはいろいろあります。

論理が整理されますし、誤解される可能性も少なくなります。なにより、文法的にミスのない文を書くことができます。また、長い文を後から短く分割するよりは、短い文を後からつなげたり、順序を変えたりする方が格段に楽です。

短い英文がたくさん書けたら、それらをどうつなぐかを考えます。接続詞を使うのか、数字を混ぜて箇条書きにするのか、はたまた関係代名詞や分詞構文を使って階層的に組み立てるのか・・・方法は何通りもでてきます。

ネイティブの研究者の論文を見ると、巧みな分詞構文や日本語話者には思い浮かばないような気のきいた表現が使われていますが、それは後からブラッシュアップすればよいので、まずは内容が正しく伝わるように書くことが先決です。

また、くれぐれも既発表論文のコピペはやめましょう。適切な引用を行わないコピペは、盗用・剽窃という大変な研究不正です。簡単でいいので、自分で言葉を選びながら書きましょう。どうしても英文が思い浮かばないときは、オンラインの自動翻訳ツールDeepLや、学術論文に特化した翻訳会社が提供しているオンライン翻訳ツールなどを使うのも個人的におすすめです。

 

その3:ブラッシュアップはツールや校正会社にまかせる

とりあえず英語で書いてみたけれど文法的に正しいか自信がない…そんな時は、まずは無料の文法チェックツールでチェックしてみましょう。Grammarlyが有名ですが、知り合いの研究者に教えてもらったAI搭載英文校正ツールTrinkaはアカデミックライティングに特化したツールでお勧めです。文法だけでなく表記の一致もチェックしてくれます。また、ただ修正するだけでなく、用法に関する説明やコメントも表示されるので、勉強にもなります。

もし、どちらの表現にしようか迷ってしまった時、例えば「この場合の前置詞はin?それともon?」などという時は、任意の文字列(n-gram)の使用頻度をチャート形式で表示してくれる検索エンジンGoogle Books Ngram Viewerを使うと、それぞれの使用頻度がグラフで示されますので、どちらを使えばいいかが一目瞭然です。

また、その表現が文中でどのように使われているかを知りたいときは、英語ネイティブによって書かれた信頼できるソースから例文を表示してくれるLudwigが便利です。PLOS ONE、The New York TimesBBCといった学術誌や著名メディアに掲載された文章のみをソースとして例文と出典が表示されます。

さらに格調高い英語に仕上げたいときは、やはりネイティブの力を借りましょう。「必要かつ十分な語数になるまで単語をそぎ落とす」「関係代名詞や分詞構文を適度に使いつつ、ここぞというハイライトでは効果的に接続詞を持ってくる」「専門用語は統一しつつ、一般的な語彙については繰り返しを避け、表現を豊かにする」などの技は、アカデミックライティングに精通したプロでなければ難しいでしょう。

英語ネイティブと同じ土俵に立ってアクセプトを競うのです。論文よりもむしろカバーレターやリバイズのやり取りに、文章力(場合によっては交渉力?)の圧倒的な差が表れてくるのかもしれません。ぜひ英語ネイティブの共同研究者や英文校正会社にお願いしてみましょう。校正者のレベルが玉石混合でどこの校正会社に出せばいいかわからないと感じる方もいるかもしれませんが、最近では、指名が多い人気の校正者を事前に指定できる英文校正サービスなどもあるようです。

その4:日ごろから(心の中で)独り言を英語で言ってみる

英語圏で活躍していらっしゃる研究者のツイッターを拝見していると、日常的に英語で物事を考えることが習慣化している、というお話を目にします。いわゆる「英語脳」を持っていらっしゃる方ですね。うらやましい限りです。私もアメリカでポスドクをしていた頃は、確かにそのような感覚で過ごしていたこともあったように思います。今はどうかと言うと、断然、日本語モードです(笑)。

ただ、今でも英語モードに敢えて切り替えてみることがあります。それは、頭に浮かんだアイディアを言語化するとき。

たとえば、このブログのストーリーを考えているときです。アイディアが明確であれば、日英両言語で上手く説明できますが、曖昧でモヤッとした考えだと日本語でしか表現できない。日本語ネイティブな自分は、第2言語である英語を通じてだと、曖昧なことを言い表せないのだと思います。逆に、英語モードで考えられるなら、そのアイディアは第2言語で説明できるくらい明確になっている証拠なのです。

普段から、ふと思い浮かんだことを、英語にしてみる。英語YouTuberのATSUさんがスピーキング上達法としてお勧めしているメソッド(この動画の6:45あたり)でもあるのですが、

英語で独り言を言う

という方法は、いつでもどこでもできる、英語脳育成トレーニングとして有効です。

この方法を隙間時間に実践すると、論文執筆だけでなく、英語で口頭発表したり、ディスカッションしたり、といったときにもとても役に立ちますね。